村井嘉浩宮城県知事の“暴走”か――“エセ住民合意”で進む防潮堤
2014年6月27日12:55PM
「首相発言に耳を傾けずに防潮堤建設に邁進する村井知事は、総理大臣を超えるほどの存在なのか?」
こんな疑問の声が、被災地の防潮堤見直し派から上がっている。
5月24日、防潮堤問題に取り組む安倍昭恵さんが発起人代表を務めるシンポジウムが宮城県仙台市内で開かれ、気仙沼市小泉地区の防潮堤計画(事業費230億円、高さ14・7メートル)が問題視された。昭恵さんが「海が見えなくなって若者が出て行く」と訴えると、安倍晋三首相もビデオメッセージで景観や環境、住民合意への配慮を求めた。
しかし村井嘉浩宮城県知事は5月26日の会見で「計画どおり造る」と見直しを拒否、6月6日に開かれた同地区の防潮堤に関する「検討会」(座長は東北大学災害科学国際研究所今村文彦所長)でも、「平成25年11月27日の説明会において合意」と資料に明記し、「現行案固執」の姿勢を打ち出した。検討会参加者はこう話す。
「小泉地区は高台移転をするため、防潮堤が守る背後地はほとんどが農地です。ある研究者が『費用対効果が低い(0・2程度)』と指摘する場面が『NHKスペシャル』(5月30日放送)で流れましたが、今村氏は、座長の立場上、問題にせず、代替案と比較する議論もなかった。100年程度に1回の『L1津波』と1000年程度に1回の『L2津波』をすり替えて代替案を切り捨てる県の説明に対しても、有識者は現行案前提の意見しか出せなかった」
見直し派の代替案は、少し陸側に盛土をして建設される「国道45号線」と高速道路「三陸自動車道」に防潮堤の機能を兼用させるもの。海岸の防潮堤は建設しない。地元見直し派の阿部正人氏は「道路の盛土強化で防潮堤ができてしまうので、工事費が削減されて工期も短縮、海岸の景観や環境破壊も回避可能」と説明。「推進派は『見直すと復興が遅れる』と言うが、代替案なら完成時期も早く、確実に復興が進みます」(阿部氏)。
先の「NHKスペシャル」では、阿部氏が手を上げても発言を許されないまま説明会が終了する映像が流れた。それでも村井知事は、代替案を排除した “エセ住民合意”を根拠に防潮堤建設に邁進中だ。
【異論は排除か】
仙台市内の東北工業大学で6月7日に開かれた土木計画学研究発表会で、「巨大防潮堤は人々を守れるか――国土強靱化の意義とは」と銘打つセッションがあった。
「国土強靱化」を提唱した内閣官房参与の藤井聡氏(京都大学大学院教授)が登壇し、「国土強靱化は、災害に強い復元力をもつ国民を作ることが核心」と強調。谷下雅義氏(中央大学教授)は「地元の若手や女性が意見を言いにくい」「地域の長老は異論を排除。それで『行政にお任せ』『事業を早く進めて復興・復旧からの解放』が優先される」などと現状を憂えた。
「村井知事の暴走を国としてどう止めるのか」との私の質問に対して、藤井氏は「国土強靱化で、まずやることは脆弱性の評価」と切り出し、「思考停止のまま思い込みでやってしまうと予算も無駄になる」と指摘。各地域の実情に合わせて計画を立てなければ「かえって被災者を増やすことになってしまう」と懸念を示し、それでは「国土強靱化の理念から大きく乖離」することになると語った。
さらに、「脆弱性評価は、危険性を相互に見合って理解することが出発点。そういうこと(十分な議論なしの思考停止状態)で突き進むことがないようにして下さいというのが(国土強靱化の)ガイドラインです」と強調した。
セッションに参加した先述の阿部氏が「(被災地で意見を出し合う)理想の場を作られているところが一体あるのか。その場を作るために国が何か努力をされているのか」と訊ねると、藤井氏は「内閣官房が行政に考え方を伝えている」と回答。だが、「それがまだ浸透していないのですね」と司会の林良嗣氏(名古屋大学大学院教授)がセッションをまとめた。
村井知事“暴走”を安倍政権が是正するのか、注目される。
(横田一・ジャーナリスト、6月13日号)