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アイヌ遺骨1636体のうち返還対象は23体のみ――ガイドラインに憤りの声

2014年7月9日5:37PM

「大学には責任を取ってほしい」と訴える差間正樹さん(前列中央)ほか。(撮影/平田剛士)

「大学には責任を取ってほしい」と訴える差間正樹さん(前列中央)ほか。(撮影/平田剛士)

北海道大学などが1930年代を中心に、研究の名目で道内外のアイヌ墓地から大量の人骨と副葬品を発掘・収集し、現在もそのままになっている問題で、政府は6月13日、「個人が特定されたアイヌ遺骨等の返還手続に関するガイドライン」を含む「アイヌ『民族共生象徴空間』基本方針」を閣議決定した。

ガイドラインはA4判4ページの簡略なもので、「大学は(中略)、返還を希望する祭祀承継者に返還する」という。「希望する者は(中略)、自己が祭祀承継者であることを示す書類(家系図、戸籍・除籍謄本等)を付して、特定遺骨等の返還を申請する」ことのほか、「大学は、申請者が祭祀承継者であることを確認した場合には、申請者に当該特定遺骨等を返還する」などと手順を淡々と示している。

策定したのは政府のアイヌ政策推進会議(座長+菅義偉官房長官)で、「加藤忠北海道アイヌ協会理事長ら、アイヌの委員のみなさんのご意見もうかがいながら作りました」(内閣府アイヌ総合政策室北海道分室)というが、「名ばかり返還」と言わざるを得ない。なぜならば、全国12大学に1600体以上もの遺骨が残っているにもかかわらず、今回の返還対象はわずか23体分にとどまるからだ。

返還が進まず、業を煮やして大学を提訴しているアイヌや支援者からは批判がわき上がっている。

【政府はアイヌを「バカにしている」】

文部科学省によれば現在、全国12大学が1636体(他に人数不明の骨515箱分)のアイヌ遺骨を保管している。「個人が特定されたものは返す」と返還指針は謳うが、条件を満たす遺骨は現時点で23体。それ以外は北海道白老町に新設する「慰霊施設」に再集約し、引き続き研究材料として「活用」する道を開いた。

北海道十勝地方の浦幌コタン(集落)などから持ち去られた遺骨の返還を求めて、アイヌ団体として初めて今年5月、北海道大学を訴えた浦幌アイヌ協会(17人)の差間正樹会長は、「浦幌の墓地から同大医学部解剖学第二講座(児玉作左衛門教授+故人)が掘り出していった64体の遺骨を元に戻してもらいたい」と話す。個人特定の難しい遺骨を慰霊施設に集め直す方針には、「先祖を慰霊するのになぜ(地元から約270キロも離れた)白老まで行かされなければならないのか」と首をかしげる。

そもそも、“墓暴き”でかき集めた遺骨を乱雑に扱い、一人ひとりの名を混乱させたのは大学側だ。

「たとえ名前が分からないとしても、浦幌のものは浦幌に戻すのが当たり前でしょう」(差間さん)

榎森進・東北学院大学名誉教授は、「アイヌ墓地発掘問題がこれで決着するかと言えば、まったくそうは思えません。むしろ対アイヌ政策の新たな問題が具体的に表れてきた」と指摘する。

「国の差別的なアイヌ同化政策を背景に、当時の大学研究者たちはアイヌ墓地を一方的に掘り起こして大量の遺骨と副葬品を持ち去った。そんな盗掘まがいの行為について政府も大学もアイヌに対して賠償はおろか、いまだ反省や謝罪の言葉すら示していません。

遺骨の大半は発掘地が分かっているのにそれらを地元に戻そうとはせず、ガイドラインは祭祀承継者という民法上の条件を持ち出して“それを自力で証明できたら返してやる”と言わんばかりの書きぶり。政府はアイヌ民族をバカにしているとしか思えない」

だが社会の多くの人々は、この「名ばかり返還」の本質にまるで気がついていないようだ。

遺骨返還請求訴訟の原告(4個人1団体)を支援する市民グループ北大開示文書研究会の清水裕二共同代表は、ガイドライン公表の翌朝、隣人(の和人)から「(問題が解決して)おめでとう」と無邪気に声をかけられ、その浅薄さに愕然としたという。

先住民族に対する「歴史的不正義」は、政府に任せきりではただせない。戒めることができるのは、市民以外にいない。

(平田剛士・フリーランス記者、6月27日号)

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