「水俣病幕引きへの地ならし」と被害者が怒り――原因企業チッソ優遇法が成立
2014年7月25日10:42AM
水俣病の原因企業・チッソ(株)を優遇する規定を盛り込んだ「会社法改正案」と「同法施行に伴う関係法整備法案」が6月20日、参議院本会議で可決され、成立した。会社法改正で企業が子会社の株を売却する際の条件が厳格化される(株主総会で3分の2以上の賛成が必要となる)が、チッソだけは例外にするという内容だ。
これについて水俣病の被害者からは「チッソの役割と責任を免責し、水俣病幕引きへの地ならしをするものだ」という怒りの声が上がっている。
怒りの理由を理解するには、第二の政治解決とされた「水俣病特別措置法」(2009年成立)にさかのぼる必要がある。
この特措法は、未認定被害者への一時金(一人210万円)の負担をチッソに求める一方で、チッソの「分社化」を認める内容だった。チッソはこれに基づいて11年4月、JNC(ジャパン・ニュー・チッソの頭文字)という100%出資の子会社を設立して全事業を移し、本社は水俣病補償業務だけを行なう体制にした(新会社は補償関係を引き継がない)。
将来JNCを上場させ、その株の売却益を認定患者の補償金や公的債務の返済金などに充て、本社は清算して消えてしまう――というのがチッソの筋書きだ。JNC株売却には環境相の承認が必要だが、さらに株主総会の特別決議も必要となれば面倒になる。そこでチッソだけは例外にしたわけだ。
チッソ優遇規定は政府案にはなかったが、園田博之衆院議員(熊本4区)が中心になって日本維新の会が修正を議員提案した。園田議員は「与党に頼まれた」と説明しているが、本社清算によって「水俣病の桎梏から解放される」(後藤舜吉前会長)ことを悲願にしているチッソの働きかけがあったのは間違いあるまい。
チッソの分社化には、新会社だけでなく、チッソ本社自体の水俣病に関する責任をも実質的に免除してしまう危険性がある。
戦後最大の産業公害を生んだチッソが「原因者責任」をまっとうするには、(1)認定患者の補償と(2)公的債務の完済のほか、(3)未救済の潜在患者への補償なども果たすことが必要だ。ところが、JNC株の売却によって(1)と(2)に必要な金額が調達できるかどうか定かではなく、(3)にいたってはその扱いが不明確で、患者の切り棄てにつながりかねない。
そんな欠陥をもつJNC株売却の促進に与党など多数の議員が加担したのである。
【新救済策を拒む環境省】
未救済の被害者たちはいまなお何万人もいる。水俣病の症状は、数カ月で死亡してしまうこともある「劇症型」から、感覚障がいを中心とする「慢性型」まで幅が広いが、慢性型の場合、その多くは公式に認定されていない。
環境省は1977年に厳しい判断基準を決め、多数の被害者を切り棄ててきた。これに対して被害者たちは司法に救済を求め、昨年4月、環境省の基準は法に適合しないという趣旨の最高裁判決を勝ち取った。しかし環境省は新しい救済制度の策定を拒み、認定のハードルをむしろ高くした「新通知」を今年3月に出している。
このため熊本、鹿児島両県では認定審査が止まり、900人を超す申請者が未審査のままだ。
未認定患者たちの訴訟も広がっている。胎児性水俣病患者と同じ世代の被害者が国・県・チッソに損害賠償を求めた「第二世代訴訟」、特措法で「非該当」「対象外」とされた被害者が補償を求めて提訴した「特措法訴訟」に続き、今年になって、新通知の取り消しを求める訴訟なども起こされた。
そうしたなかで6月19日、「水俣病被害者とともに歩む国会議員連絡会」(11議員、会長・辻元清美民主党衆院議員)が発足した。
初めての超党派議員による組織は、水俣病と、新潟水俣病(原因企業は昭和電工〈株〉)を対象に、まず現地調査を実施。新しい救済策なども検討していくという。
(岡田幹治・ライター、7月11日号)