発生から16年のカレー事件――ヒ素の鑑定で新たな火種
2014年8月5日6:03PM
7月25日で発生から16年を迎えた和歌山カレー事件。無実を訴えながら死刑確定した林眞須美さん(53歳)の再審請求をめぐり、弁護団が14日、ヒ素に関する再鑑定を認めない決定を出した和歌山地裁(浅見健次郎裁判長)に反論した。
裁判では、東京理科大学の中井泉教授が放射光施設スプリング8で「林さん宅にあった容器のヒ素」や「現場で見つかった紙コップのヒ素」の組成を調べ、「同一の物」と認めた鑑定が有罪の拠り所になった。だが、弁護団は今年3月、京都大学大学院の河合潤教授が中井鑑定の測定データなどを再分析し、ヒ素の濃度などの点から「(中井鑑定の)信頼性は極めて低い」と断じた鑑定書を和歌山地裁に提出。さらに河合鑑定に基づき、同地裁にヒ素の組成などを再鑑定するよう請求したが、同地裁は6月30日に退ける決定を出していた。
会見で石塚伸一弁護士は「明らかに裁判所が現在の科学的知見を理解できなかった」と批判。安田好弘弁護士は、中井教授の鑑定は測定データと結論に矛盾があることなどを訴え、「私どもは『ねつ造だろう』と思っている。近いうちに中井先生に公開質問状を出し、『あなたの鑑定書は正しいのか』『なぜデータと結論が違うのか』をお聞きしたい」との考えを示した。同席していた河合教授も、中井鑑定を改めて肯定した和歌山地裁の決定を「容器に入ったヒ素を別の容器に移し替えるだけで、ヒ素の濃度が49%から75%に増加するという自然には起こりえない現象が起きたと、公式に認めたことになる」と皮肉った。
弁護団は今後、中井鑑定に依拠し、再鑑定の請求を退けた和歌山地裁に対しても、再考を求める意見書を提出するという。
(片岡健・ルポライター、7月25日号)