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「ヘイトスピーチを煽動する本」を売ることの責任――出版関係者がシンポジウムを開催

2014年8月27日6:14PM

加藤直樹氏による講演の様子。日本と韓国の書店棚の比較などを行なった。(写真提供/出版労連)

加藤直樹氏による講演の様子。日本と韓国の書店棚の比較などを行なった。(写真提供/出版労連)

「『嫌中憎韓』本とヘイトスピーチ――出版物の『製造者責任』を考える」をテーマに7月4日、東京都内でシンポジウムが開かれた。

ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会(以下、反ヘイト出版会)と日本出版労働組合連合会(以下、出版労連)の共催で、当日は110名が参加。会場には立ち見の姿もあった。

メイン企画として講演を行なった加藤直樹氏は、今年3月に『九月、東京の路上で』(ころから)を上梓した。1923年の関東大震災時に朝鮮人や中国人が虐殺された現場などを丹念に取材・調査した労作で、現在3刷、1万部を超える売れ行きを見せている。

加藤氏は、韓国の大型書店ではベストセラーなどの書棚に、いわゆる「反日」的な書名がほとんど見当たらないことなどをスライドを交えて紹介。日本の現状と比較して、参加者からも「恥ずかしい」といった声があがった。

質疑応答では書店員・元週刊誌編集長・新聞記者・フリー編集者らが出版関係者の「製造者責任」について意見を交わした。これに伴い参加者の関心を引いたのは、反ヘイト出版会が書店員を対象に実施した〈嫌中・嫌韓本〉に関するアンケート結果の報告だった。今年5月下旬にフェイスブックやツイッターを通じて協力を呼びかけた調査には、依頼数13件のうち10件が回答。内訳は大型店5件、中型店4件、小規模・個人経営店1件となっている。要約した質問と回答の一部を紹介する。

《「嫌中憎韓本」ブームはいつごろから? その理由は?》

・従前に比べられないレベルで1冊1冊が売れるため、存在感が増している。顕著になったのは2013年末から。(社会科学書担当)

・『嘘だらけの日中近現代史』(扶桑社新書、13年発刊)が何の宣伝もしていないのに勝手に売れ続けたあたりから、異変の予兆を感じていた。(雑誌・ムック担当)

・わかりやすいストーリーを組み立てて、刺激的に書かれている。読者は安心して読めるのでは。(法律・政治・経済・経営担当)

・竹田恒泰『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』(PHP新書)のロングセラーが伏線として重要。〈日本肯定論〉の自己愛が普及するに伴って、堂々と〈嫌中憎韓〉を表明することができるようになった。(雑誌・ムック担当)

・(差別意識を抱く対象が)力をつけて国際舞台で存在感を増していることが許せない読者もいるのでは。(法律・政治・経済・経営担当)

・差別感情を巧妙に〈正当化〉する手段や方法論がインターネットを通じて確立され、負い目を感じることなく〈差別を声に出していいんだ〉という空気が醸成された。(芸術・雑誌・コミック担当)

《購入する客層や特徴は?》

・曾野綾子の読者層(60代後半以降)とほぼ一致する。(店長)

・圧倒的に50歳前後の〈日本の中核〉を担っているような男性サラリーマン。(雑誌・ムック担当)

・(最近は)中高年の女性も多い。普段は書店にこないのか、大抵が広告記事を片手に書名で問い合わせの目的買い。(社会科学書担当)

《「嫌中憎韓本」がブームと言われるような状況に対して。》

・配本があれば仕方なく棚に並べるが補充発注は決してしない。(雑誌・ムック担当)

・〈嫌韓嫌中〉が極端に多い現在の書店の棚には危機感を拭いきれない。(芸術・雑誌・コミック担当)

「愛国」という言葉を他の民族を排除し貶める意味で使用しているみたいで恐怖を感じる。(法律・政治・経済・経営担当)

太平洋戦争末期、「アメリカ兵をぶち殺せ」という「柱(キャッチ・コピー)」を配した某婦人雑誌があった。現在も街中では「朝鮮人を殺せ!」の罵声が響き渡り、「戦争のできる国」づくりを進める人びとが政治や経済を牛耳っている。シンポでの様々な発言を聞きながら、いざ他国と交戦状態になったら、「国策」に逆らえず、編集者として憎悪を煽るタイトルをひねり出す、自分の姿を想像した。

(真鍋かおる・反ヘイト出版会事務局、8月1日号)

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