「アイヌ」めぐり札幌市議が暴論――「先住権」課題か
2014年9月9日10:13AM
「アイヌ民族なんて、いまはもういないんですよね」――金子快之・札幌市議(43歳)によるインターネットへの書き込み(8月11日)が波紋を広げている。
本人のブログによると、金子市議は兵庫県生まれで1998年に北海道に転居し、2011年の市議会選挙でみんなの党(後に離脱)から出馬、初当選した。議会ではアイヌ施策の妥当性に関する質問実績がある。金子市議の今回の発言に対して、〈あまりに乱暴〉(『北海道新聞』19日・社説)、〈話が飛びすぎ〉(『朝日新聞』20日・「天声人語」)、「大変残念」(21日、高橋はるみ道知事・会見)などと批判が相次ぎ、24日には所属先の自民党会派も発言撤回と謝罪を求めた。
だが、それだけでは先住民の安心は得られない。たった22文字で存在を否定されたアイヌは呆れ顔だ。同市内の木幡寛さんは「相手にするのもバカらしい」と話し、荒木繁さんは「(アイヌは)ちゃんと生きているのに何で?」、石井ポンペさんは「(アイヌの)若者を傷つけた責任は重い」と憤る。
批判に対して金子市議は〈「アイヌ」を法的に証明する根拠が現行法にない〉(8月16日ブログ)などと反論するが、先住権に詳しい市川守弘弁護士は、「誰がアイヌかを判断する権限は第一義的にコタン(帰属集団)にある」と切り返す。そうした判断も先住権の一つであり、「その上で、コタンを離れて暮らす世帯への公的福祉サービスなどは、国会や地方議会がそれぞれ認定条件を定めて実施すればいい。米国などに先例があります」、「先住民との共生に、こうした二重の基準はつきもの」と、市川弁護士は解説する。
日本政府がアイヌを先住民族と認めたのは08年だが、先住権をめぐる課題は先送りし続けている。差別構造を残し、「アイヌとは誰か」を明確化できない社会のままでは、同様の“暴論者”を生む素地はなお残る。
(平田剛士・フリーランス記者、8月29日号)