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“イスラム過激派組織”に日本の若者が参加の意思――巧妙な間合いで“対テロ”法案

2014年10月27日12:40PM

イラク・シリアで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」に参加しようとシリアへの渡航を企てたとして、警視庁公安部は6日、北海道大学の学生(26歳)らを任意で事情聴取し、家宅捜索を行なった。この一件は国内のみならず国外でも大きく報じられた。

チュニジアの首都・チュニス在住の建築家、ハナ・ジェニさんはニュースを知って「驚いた」と話す。彼女はスンニー派のイスラム教徒だ。「日本はイスラム国の問題とはまったく縁遠いと思っていたのでたいへんな衝撃です。彼らは単なる犯罪集団。多くのイスラム教徒も殺されている」と言う。

ジェニさんが心を痛めるのは、多くのチュニジア人の若者も同組織に参加しているからだ。その数は3000人とも言われ、他の中東諸国と比べても格段に多い。

「私と同じ小学校だった男性が一カ月前に参加しました。パリに住む知り合いの女の子も。二人とも臆病な子でした。2010年から11年にかけてのジャスミン革命(民主化運動)以後、サラフィー・ジハード主義という復古的なイスラム過激思想の影響が強まり、一部の人々を魅了し、大きな社会問題となっています」(ジェニさん)。

チュニジアは「近代化」が進み、比較的豊かなイスラム国家とされている。他方で、伝統的な宗教共同体の基盤のない若者たちの間では、あたかも自分たちのアイデンティティを呼び覚ますかのような復古調の過激思想が浸透しやすくなっているという。「保守」「伝統」といった概念への回帰傾向が指摘される日本と現状は似ている。

ただ、若者が勢いで戦地に向かうことを懸念する声は少なくない。

1990年にタイの少数民族、カレン族の解放闘争に加わったフリーター全般労働組合の渡辺修孝さんは、「後悔している」と語る。

「迫撃砲の弾補充をしたがトラウマが残り、帰国後も5年くらいは(夢の中の)爆撃の音で目が覚めることが続きました。私の時もブローカーが仲介しましたが、金儲けのために若い人を戦地に送り込む安易さに非常に腹が立ちます」

アメリカに就労ビザで滞在した98年から2年間、スカウトされてニュージャージーの州兵として勤務した大家信夫さん(仮名)も、本件についての見方は厳しい。

「戦場に入るには武器の扱いはもちろん、体力、食糧確保の技術などかなりの訓練を要します。伝え聞くかぎり、北大生の様子では足手まといにしかならない。イスラム国は軟禁して家族に送金要求するのが目的だったとしか思えない」

【報道直後の閣議決定】

「北大生」やその関係者に対する世論は厳しいものが多い。ただし、この問題は別の角度からも注視する必要がある。警視庁は刑法93条(私戦予備・陰謀の罪)を根拠に容疑をかけ、捜査を実施した。同条文が持ち出されるのは今回が初。警察の狙いについて、特定秘密保護法や共謀罪の問題に詳しい梓澤和幸弁護士はこう分析する。

「刑法93条の立法趣旨は、外交上の利益等、重大な国家的法益を保護することだと考えられる。条文にある『私的に戦闘行為をする』とは一定の戦力、武装した者が国家の命令に反して戦闘を行なうことでしょう」

同条文が想定しているのは、たとえば国連平和維持活動(PKO)で海外に派遣された自衛官が命令もないまま戦闘行為を始めてしまうようなケースだ。一個人の行動で日本の外交上の利益が著しく侵害される、というのも考えにくい。

各種メディアが学生らのことを一斉に報じた直後の10日、政府は「国際テロリスト財産凍結法案」を閣議決定し、臨時国会へ提出した。この法案は、共謀罪導入との関連で危惧する声もある。

「共謀罪の創設でいちばん問題なのは警察権限の拡大です。今回、被疑事実が曖昧なまま家宅捜索がされましたが、こういったことが今後、警察の裁量で広範囲に及ぶ可能性があります」(梓澤弁護士)

「テロ対策」で“危険な法”を成立させ、共謀罪新設法案再提出に向けた地ならしを政府が行なっている、と見ることもできよう。

(竹内一晴・ジャーナリスト、10月17日号)

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