大阪・泉南地方の石綿被害めぐる裁判――最高裁が国の責任認める判決
2014年10月30日2:03PM
大阪南部・泉南地方の石綿工場の元労働者ら89人が石綿の危険性を知りながら対策を怠った国に損害賠償を求めた裁判で、最高裁第一小法廷(白木勇裁判長)は10月9日、排気装置の義務付けが遅すぎたとして、石綿被害では最高裁として初めて国の責任を認めた。
原告は一陣34人、二陣55人。一陣高裁は敗訴、二陣高裁は勝訴と分かれていたが、最高裁判決で二陣は約3億3200万円の賠償額が確定、一陣は賠償額算定のため、高裁に差し戻された。
他方で、排気装置が義務付けられた1971年以降に就労した労働者の遺族原告7人への賠償は認めず、工場に隣接する社宅に住んでいた労働者の家族や石綿工場の近隣住民の訴えは門前払いにした。
元看護師の岡田陽子さん(58歳)は、親が働く石綿工場隣の社宅に住んでいたが、今は石綿肺に苦しむ。「石綿は労働者もその家族も区別しません。表に出てこない労働者家族の被害者もたくさんいます」と語った。
南寛三さんは、石綿工場の隣の畑で農作業をしている際に石綿の粉塵を吸い、20年以上も石綿肺で苦しみ抜いて91歳で死去した。長女の和子さん(71歳)は、「労働者と住民をなぜ線引きするのか。近隣暴露も救済されるよう政治解決を求めます」と話した。
原告らは、同日夜から10日にかけて塩崎恭久厚生労働大臣の謝罪などを求めて断続的に交渉を続けたが、同省は「判決を精査して検討する」として15日に回答することになった。交渉後、小林洋司大臣官房総務課長は、「一陣は大阪高裁に差し戻され、形式としては訴訟は継続中。係争中の相手とは会わないのが不文律」と語った。
原告側の鎌田幸夫弁護士は、「厚労省から、最高裁の判決直後に勝訴が確定した二陣原告に賠償金を支払いたいとの連絡がありました。お金だけ払って済まそうということなのでしょう」と推測した。
(永尾俊彦・ルポライター、10月17日号)