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『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(1)

2014年11月13日2:29PM

2011年3月15日、福島第一原子力発電所4号機。(提供/東京電力)

2011年3月15日、福島第一原子力発電所4号機。(提供/東京電力)

 朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)が11月12日、東京電力福島第一原発の元所長・吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書「吉田調書」をめぐり、『朝日新聞』が今年5月20日付朝刊で報じた記事について見解をまとめました。PRCは「報道内容に重大な誤りがあった」「公正で正確な報道姿勢に欠けた」と判断し、朝日新聞社が記事を取り消したことは「妥当」としています。
『週刊金曜日』は、この見解に強い違和感を持ちます。2014年10月10日号の特集「吉田調書と官邸」の記事を緊急ネット配信します。

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木村伊量朝日新聞社社長は吉田調書記事について、〈「命令違反で撤退」という表現を使ったため、多くの東電社員の方々がその場から逃げ出したかのような印象を与える間違った記事〉として謝罪した。だが、誤報かどうかを判断するには2011年3月15日の状況を総合的に判断する必要がある。

東日本大震災は2011年3月11日午後2時46分に発生した。福島第一原子力発電所では外部からの電力を運ぶための鉄塔が倒壊したことなどから外部電源を失ってしまう。このため、非常用交流電源(ディーゼル発電機)が起動したが、津波に襲われて発電が不可能になった。こうして原子炉は全交流電源を失い、ゆっくりとだが、確実に暴走してゆく。

東日本壊滅の危機

12日午後3時36分、1号機が水素爆発する。そして、14日午前11時1分には3号機が爆発する。

14日夜の状況について、福島第一原発の吉田昌郎所長(当時、2013年死去)はどのような危機感を抱いていたのか。吉田所長は政府事故調査・検証委員会に答えた「聴取結果書」(吉田調書)で次のように振り返っている(丸カッコ内は筆者注、以下同)。

〈2号機はだめだと思ったんです、ここで、はっきり言って。〉

〈3号機は水入れていましたでしょう。1号も水入れていましたでしょう。(2号機は)水入らないんですもの。水入らないということは、ただ溶けていくだけですから、燃料が。燃料が溶けて1200度になりますと、何も冷やさないと、圧力容器の壁抜きますから、それから、格納容器の壁もそのどろどろで抜きますから(略)。燃料分が全部外へ出てしまう。プルトニウムであれ、何であれ、今のセシウムどころの話ではないわけですよ。放射性物質が全部出て、まき散らしてしまうわけですから、我々のイメージは東日本壊滅ですよ。〉

そして、吉田所長は職員の退避を考える。吉田調書はこう伝える。

〈完全に燃料露出しているにもかかわらず、減圧もできない、水も入らないという状態が来ましたので、私は本当にここだけは一番思い出したくないところです。ここで何回目かに死んだと、ここで本当に死んだと思ったんです。/これで2号機はこのまま水が入らないでメルトして、完全に格納容器の圧力をぶち破って燃料が全部出ていってしまう。そうすると、その分の放射能が全部外にまき散らされる最悪の事故ですから。〉

〈そうすると、1号、3号の注水も停止しないといけない。これも遅かれ早かれこんな状態になる。/そうなると、結局、ここから退避しないといけない。たくさん被害者が出てしまう。勿論、放射能は、今の状態より、現段階よりも広範囲、高濃度で、まき散らす部分もありますけれども、まず、ここにいる人間が、ここというのは免震重要棟の近くにいる人間の命に関わると思っていましたから、それについて、免震重要棟のあそこで言っていますと、みんなに恐怖感与えますから、電話で武藤(武藤栄・東京電力副社長=当時)に言ったのかな。1つは、こんな状態で、非常に危ないと。操作する人間だとか、復旧の人間は必要ミニマムで置いておくけれども、それらについては退避を考えた方がいいんではないかという話はした記憶があります。〉

〈免震重要棟。そのときに、■■君(名字は黒塗り)という総務の人員を呼んで、これも密かに部屋へ呼んで、何人いるか確認しろと。協力企業の方は車で来ていらっしゃるから、(・・・)。うちの人間は何人いるか確認しろ。特に運転・補修に関係ない人間の人数を調べておけと。本部籍の人間はしようがないですけれどもね。使えるバスは何台あるか。たしか2台か3台あると思って、運転手は大丈夫か、燃料入っているか、表に待機させろと。何かあったらすぐに発進して退避できるように準備を整えろというのは、こんなところ(本店と結んだテレビ会議の記録)に出てきていませんが、指示をしています。〉

要は、事故対策ができなくなれば放射性物質を広範囲高濃度でまき散らすことになるかもしれないが、事故が進行して放射線量が高まれば被曝で死ぬため、最小限の人員を残して退避させようと考え、準備を進めていたということだ。本店主導で撤退準備が進んでいたこともテレビ会議からわかる。このように、14日夜から福島第二への退避計画が進められていた。そして、問題の15日朝を迎える。

(つづく、伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

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