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関西電力の姿勢一変に広がる波紋──「短期決戦」確実となった大飯原発差し止め控訴審(伊田浩之)
2014年12月4日4:17PM
東京電力福島第一原発の過酷事故後に初めて出た原発本体にかんする司法判断は画期的だった。国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点から福井地裁(樋口英明裁判長)は今年5月21日、関西電力(関電)大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを命じたのだ。
この裁判の控訴審が11月5日、石川県の名古屋高裁金沢支部(内藤正之裁判長)で始まった。関電側が福井地裁判決の取り消しを求め、住民側は関電の控訴を退けるよう求めた。そして、関電側は次回の弁論期日である来年2月9日の1週間前までには主張をすべて提出し、証人を呼ぶ予定はないとした。これで「短期決戦」が確実となった。
司法の責任を問う声も
この日の弁論で原告側は「進行に関する意見書」を提出。8月4日の進行協議で今後の立証計画を示さない関電側に裁判所が「全然納得できない」などと述べたことを明らかにした。さらに原告側は、この日までに関電側が出した準備書面について
〈安全性については原審(筆者注、福井地裁)で主張した一般論を繰り返し〉ていると強く非難、〈原発を再稼働して既成事実とするため、徒(いたずら)に審理を引き延ばそうとしているとすれば決して許されない〉
と訴えた。その直後の急展開だった。
住民側の河合弘之弁護士はこう話す。
「一審の福井地裁に続き、二審の高裁でも証人尋問なしとなると異例中の異例です。証人尋問は面倒くさく、言い争いになって調書がもの凄い量になる。一般論ですが、裁判官は膨大な記録を読む重圧に負けるんです。そうすると、権力や権威のありそうな学者の言うことを聞いておけばいいとなり、住民敗訴の判決が続いてきた。楽観はできないが、この迅速審理で、もし住民側が勝てば原発裁判の新しいスタイルを確立することにつながります」
次回までに主張を出し切る、と姿勢を一変させた関電側の狙いはどこにあるのか。住民側弁護士の間でも見方は分かれているが、海渡雄一弁護士は記者会見で「証人がいらないと関電が考えているなら甘い。裁判所をなめているのか、事件を投げてしまったのか、弁護団会議でしっかり検討したい」と話した。
ただ、住民側には不安もある。ひとつは、関西電力が大飯原発3、4号機の耐震設計の基になる地震の最大の揺れ「基準地震動」を現行の759ガル(ガルは加速度の単位)から856ガルに引き上げ、原子力規制委員会が10月29日の審査会合でこれをおおむね了承していることだ。
福井地裁判決は、過去10年足らずの間に基準地震動を超える地震が原発に5回到来していることを重視し、「過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法」自体を疑問視した。しかし、「関電が基準地震動を引き上げたことについて、裁判所が『よく頑張ったね、はいご褒美(ほうび)』と、関電を勝たせることになるとまずい」(前出の河合弁護士)。
住民側のもうひとつの不安は、名古屋高裁金沢支部の裁判長が第1回弁論期日直前の10月3日に突然替わったことだ。8月の進行期日で関電に厳しく接したのは移動前の裁判長なのである。東京高裁から着任した内藤正之氏は、今年7月に最高裁事務総長になった戸倉三郎氏と大学の同窓で司法修習の同期。最高裁の“意向”に沿った判決を心配する声が上がっているという。
このため法廷では「司法の責任」を問う主張が多かった。原告団長の中嶌哲演(なかじまてつえん)さんも、被曝労働者や未来世代、海外輸出への倫理的責任も問うよう裁判所に求めた(注)。
「科学的であるが科学論争の迷路に入り込まない」常識論で運転差し止めを認めた福井地裁判決がどうなるのか。司法は、「安全神話」の復活に二度と手を貸してはならない。
(いだ ひろゆき・編集部、2014年11月14日号)
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