考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

収束しない原発事故、秘密保護法施行など課題山積――解散「選挙」で蠢く与野党

2014年12月9日9:43PM

11月21日、衆議院が解散された。12月2日公示、同月14日に投開票となる第47回衆議院議員選挙。11月9日から17日まで安倍晋三首相が外遊している間に永田町の雰囲気は一変。帰国後は“既成事実”化していた異例の解散劇となった。

「大義なき解散」と批判した野党も一気に選挙の準備を進めた。選挙は295の小選挙区と180議席の比例代表で争う。首相の座に必要な過半数は238議席。連立与党が解散前の勢力から90議席減らすと首相は交代する。民主党は180人程度を公認したが推薦はしない。各党間の候補者調整が急ピッチで進み、ほとんどの選挙区で「野党すみわけ候補」を擁立。地上戦は早くも中盤を迎えている。

安倍首相は「アベノミクス解散」(11月21日の記者会見)と命名。異次元の金融緩和政策などの3本の矢を「この道しかない」と国民に主張する。民主党はマニフェストで「経済政策3本柱」として金融緩和の柔軟性を問う。テレビ討論などの空中戦では、自民党幹部が“アベノミクス”で改善したとする経済指標を誇示したが、野党各党の幹部は物価高を考慮していないと、その誤りを指摘した。自民党幹部も解散を事前に知らされておらず浮き足立っているようだ。

10月31日、黒田東彦総裁率いる日本銀行は追加金融緩和に打って出た。国債の買い増しで経済指標を持ち上げようとした黒田総裁に抗しきれず、安倍首相が消費増税先送りによる国債の信認を保つため、解散・総選挙で国民の力を借りようとしているならば滑稽だ。

安倍政権はこの2年間、大事なことは国会外で決めてきた。原発再稼働の「エネルギー基本計画」、武器輸出の「防衛装備移転3原則」、アメリカの戦争に加担する「集団的自衛権の憲法解釈の変更」など――官僚のみならず、有力民間人も取り巻きとして動かしてきた。

世界的に“マネー資本主義”が民主主義を脅かしている。政界を引退した藤井裕久元財務相は、「民主主義は中産階級がいないと機能しない」(11月22日放送のTBS「時事放談」)と警鐘を鳴らした。師走の衆院選、著名人もおらず、とりたてて注目選挙区もない。しかし、有権者が政府、政党、マスメディアに頼らず、家族、友人、知人が情報を共有する「中間的な組織」で投票行動を決め、一定の影響力をもつことに時間を割かねばならない。さもないと、大企業の“企画部門”ら大資本に民主主義そのものが押し流される。

(宮崎信行・政治ジャーナリスト)

【問われる“脱原発”の行方】

安倍首相は「アベノミクスを問う」と訴える。だが、この選挙は原発再稼働に突き進む同政権の暴走を止めるか否かの“脱原発”選挙でもある。原発事故で放射能汚染の被害を受ける地域を「被害地元」と名づけた嘉田由紀子・前滋賀県知事は、こう話す。

「県知事時代から『被害地元も立地自治体並みの権限を持つべき』『再稼働には被害地元の同意も必要』と訴えてきましたが、安倍政権は『被害地元』の合意なしで川内原発再稼働を進めようとしています。関西電力の原発が集中する福井県の『高浜原発』も再稼働が秒読み段階に入っていますが、県内の女性たちが被害地元『(原発)風下ネットワーク』を立ち上げて、統一地方選で再稼働反対議員を増やそうとしていました」

2012年に関西電力大飯原発(福井県)の再稼働反対で嘉田前知事と連携した橋下徹・大阪市長も、11月14日の会見で「川内原発を再稼働するのはありえない」と問題視した。一方、民主党の枝野幸男幹事長も11月20日、「安倍政権の再稼働を含む原発政策には大きな問題がある。争点になり得る重要かつ明確な違いのあるテーマだ」と会見で語った。

再稼働を止めることを目的とする「風下ネットワーク」のような運動体が全国に広がり、無党派層と野党が連携する可能性が出てきた。高浜原発の被害地元になる滋賀県・京都府・大阪府、また、川内原発(九州電力)を抱える鹿児島県、そして、玄海原発(九州電力)の影響を受ける佐賀県・福岡県・長崎県など、原発の“風下”になる被害地元は各地に存在する。

鹿児島1区では川内博史・元科学技術・イノベーション推進特別委員長(民主党公認)が「鹿児島市も川内原発の被害地元になる。再稼働反対も訴える」と強調、滋賀3区でも嘉田氏と活動を共にしてきた小川泰江・守山市議が民主党公認候補となった。

玄海原発の再稼働を推進してきた古川康知事が出馬予定の佐賀2区でも、後任知事を決める佐賀県知事選と共に再稼働が争点になる見通しだ。自民党系で再稼動容認候補の古川康氏と、市民派の島谷幸宏氏(九州大学教授)が対立する構図となっている。

(横田一・ジャーナリスト)

【いまも未整備の秘密保護法】

昨年末に成立した特定秘密保護法の施行も12月10日に迫っている。「解散にともなう選挙で批判を抑える目論みもあるのでは」と憶測が飛ぶが、そもそも、同法は準備が不十分であり、施行を先送りすべきだとの声が出ている。

衆参両院議員計8人で構成され、特定秘密の指定や解除が適切であるかどうかをチェックする秘密会の「情報監視審査会」が最大の問題だ。施行日から逆算して12月までに設置しなくてはならないが、解散の影響で目処がたっていない。衆参の議員運営理事会でも、現在まで設置に向けた手続きが行なわれておらず、「情報監視審査会」の特定秘密を扱う「国会職員の適性評価」も未実施だ。さらに「情報監視審査会」の運用基準素案では、特定秘密の取扱業務に従事する「国会職員」が官庁等による情報の意図的隠蔽を発見した場合、それを公表できる「公益通報者保護制度」を設けることになっていた。だが、これも未整備であり、政府内には同制度の設置そのものを見送る動きすら出ている。

このため民主党は11月18日、「維新の党」と共同で「特定秘密保護法施行延期法案」を衆議院に提出。同日、国会内で記者会見した大島敦議員ら民主党側は、「『情報監視審査会』が機能しないまま、議員不在のまま12月10日の施行を強行するのは許されない。施行を延期すべきだ」と強調した。

一方、日本弁護士連合会は今年6月、「秘密保護法が抜本的に改正されなければ、恣意的な特定秘密指定の危険性は払拭されない」として、特定秘密保護法の廃止を要求。11月14日には日本共産党と社民党などが共同で、同法の廃止法案を参議院に提出している。

だが、安倍内閣は、国会でろくに審議もしないまま昨年衆参で強行採択した問題だらけの同法を、今回もまともな手続き抜きで強引に施行する構えだ。

こうした安倍内閣の姿勢に抗議し、施行前の12月6日には、全国11都府県で抗議の一斉行動が予定されている。このうち東京では、13時50分から日比谷野外音楽堂で「『秘密保護法』施行するな!」と銘打った集会を開催。名古屋市や京都市、広島市でも集会とデモが計画されている。各地の当日の行動予定については、URL http://www.himituho.comで掲示されている。

(成澤宗男・編集部、11月28日号)

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ