摂津市がJR東海の事業に反対――地方自治体初の提訴
2014年12月11日4:33PM
JR東海が大阪府摂津市の新幹線基地(鳥飼車両基地)で突如として井戸掘削を開始したことについて、「地盤沈下が起こる」と反対する同市は11月14日、工事中止を求める訴訟を大阪地裁に起こした。地方自治体がJRを訴えるのは初。
1964年の新幹線開業から当時の国鉄は同基地で井戸水を汲み上げていたが、まもなく周辺での地盤沈下が判明。77年に摂津市は旧国鉄と環境保全協定を締結、地下水を汲み上げないことを定め、民営化後のJR東海とも同協定を継続し、地盤沈下は止まっていた。
だが、今年9月、JR東海は車両基地内の3%だけを占める茨木市部分で井戸掘削工事を始めた。摂津市は「協定違反だ。地盤沈下が再び起こる」と撤回を要求したが、JR東海は「摂津市の行政管理権は及ばない」として工事を続行。市は工事差し止めの仮処分を同地裁に申し立てていた。
摂津市の森山一正市長は「騒音問題の克服にも協力してきた市民は裏切られた思い」と怒り、「協定は基地全体に及ぶ」と主張する。
基地前で座り込みを続けてきた鴻池勝彦さん(74歳)の自宅は、かつての地盤沈下で傾斜し、廊下でボールが転がる。「家のすぐ近くの神社で57センチメートルの沈下が記録されている。説明もなしに強行するのは許せない」と話す。
同基地ではトイレ用や清掃などに1日750トンもの水を使う。JR東海は、水道は災害時に断水もあるため井戸にウエイト(比重)を置きたい意向だが、本音は経費節減だろう。同社が摂津市に支払う水道料金は約1億円。井戸利用で約6000万円の上水代を抑えられる。北摂全域での汲み上げ量に比べればごくわずかで地盤沈下は起きないとするJRに、森山市長は「摂津市は土地が低く地盤沈下すれば水害の危険もある。絶対に認められない」と対立する。
開業半世紀の祝賀ムードの陰で、JRによる地元民無視が露呈した。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、11月28日号)