生活道路を断たれた住民と悶着――安全対策急ぐ江ノ電
2015年1月8日8:02PM
鎌倉で110年以上の歴史を持つ江ノ島電鉄(江ノ電)が、遮断機のない線路横断路を「安全対策」として封鎖する工事を強行し、沿線住民の生活を阻害している。
工事が実施されたのは、江ノ電の稲村ヶ崎駅(鎌倉市)付近にある線路横断路。線路横断路は、国土交通省の設置基準に定められた正式な踏切ではないが、長年にわたり住民が生活道路として使ってきた。「津波避難路」とも考えられている。江ノ電側も「黙認してきた」(江ノ電関係者)という。
住民によると、江ノ電が工事を行なうことを明らかにしたのは今年2月末。住民の一人は「突然、横断路に『工事のお知らせ』との告知文が張られ、封鎖されることを知った」と話す。これに住民らは抗議し、江ノ電は説明会を実施したものの「一方的に工事実施を告げるものだった」(住民)という。3月末には工事が強行され、11月末には横断路は完全に封鎖された。
江ノ電側が工事を急いだ背景には、2007年に稲村ヶ崎駅付近と、隣にある七里ヶ浜駅付近の2カ所で人身事故が起きたことがある。国交省から安全対策を取るよう指導を受けた江ノ電は、同年に稲村ヶ崎駅付近の横断路1カ所を封鎖。今年11月末までに稲村ヶ崎駅付近のみで計2カ所を封鎖した。
これに対し住民側は「警告灯をつけるなどの安全な小道の保全」を江ノ電に求めた。江ノ電は工事について、(1)沿線住民の高齢化に伴う安全な通行の整備(2)観光客が線路に立ち入るなどの交通秩序の乱れを防止(3)事故の防止――などを理由に挙げ、「安全柵を設置することが、最良の方法」としている。
ただ、ほかにも事故のあった七里ヶ浜駅付近の横断路には警告灯をつけるのみの対策が施されており、「安全対策」には一貫性がない。
稲村ヶ崎駅付近の住民の一人は、家の出入り口が線路に面した場所にしかない。背後には別の家が建っており、出かける際には、線路前に作られたわずか60センチメートル幅の細道を200メートル以上歩かなければ広い道に出ることもできなくなったという。住民は「安全対策というが、本当に住民のためのものなのか」と嘆く。
住民らは鎌倉市に対応を求め、12月16日の市議会では「住民の話を聞くように市が要請しても、江ノ電には聞く姿勢がない」「江ノ電は住民に対する顔と市に対する顔が違う」などの意見が出された。
(渡部睦美・編集部、12月19日号)