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汚染対策は見切り発車、後世に残る“粗大ゴミ”も!?――生活を圧迫する“東京五輪”
2015年1月19日7:38PM
2020年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)だが、性急にすぎる整備事業が人々の生活を圧迫しつつある。
東京都は、豊洲新市場(江東区)の土壌汚染対策工事の完了を受けて昨年12月17日、新市場建設協議会を開き、豊洲の開場時期を「2016年11月上旬としたい」と提案、築地市場(中央区)から引っ越す大卸や仲卸などの代表は合意した。五輪の開催年にあわせて環状2号線を築地市場の跡地に通す計画になっており、17年4月までに更地にしなければならず、そこから逆算した日程だ。
だが、傍聴した日本環境学会の坂巻幸雄さんは、「関係者にとっては刑の執行日の宣告と同じで、『合意』というよりも『不承不承』に近い。五輪が汚染市場を生んだと知ったら、国際世論はどう反応するのだろうか」と疑問を呈する。
土壌汚染対策法では、対策工事完了後、2年間の地下水質モニタリングを定めている。この調査で特定有害物質の含有量が基準値以下であることを確認しなければ、同法の指定区域を解除できない。
13年3月、塚本直之市場長(当時)は、都議会予算特別委員会で「2年間のモニタリングを実施した上で指定を解除する」と述べた。豊洲には以前、東京ガスの工場があり、これに由来するベンゼンやシアン化合物などが検出されている。塚本氏の答弁は本件についてのものだったが、今後のモニタリングで基準値以上の有害物質が検出された場合、指定区域が解除されないまま開場されることになる。
都の井川武史課長(新市場整備部)にこの点を質問すると、「塚本元市場長は2年間のモニタリングが開場の条件とは言っていません。また、指定解除を目指すスタンスは変わっていません。昨年(14年)11月からモニタリングは始めているので、16年11月開場には間に合います」と答えた。しかし、この問題を追及する一級建築士の水谷和子さんは、「都は汚染が検出された場合の指定解除のための対策を予定していません。それなのに『指定解除を目指す』というのは、とんでもないインチキ」と批判する。
【迷走する新国立競技場】
五輪の主会場となる新国立競技場も計画が迷走している。当初は総工費が最大3000億円と試算されたが、著名な建築家や市民団体から「景観を破壊する」など批判が相次ぎ、高さを75mから70mに抑え、面積も約2割縮小した。それでも、約1625億円かかる。予算は国費で賄われるが、政府は都にも負担を求めている。
事業主体の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は、国立競技場を改修すれば約777億円で済むとの試算を出していた。だが、陸上競技で世界標準の9レーン(現状は8レーン)へ改修できないなどと不明瞭な理由で、JSCは新設の姿勢を崩さない。
建築家の磯崎新氏は、コンペで選ばれたザハ氏の本来のデザインを損なう現行案で建築された場合、「将来の東京は巨大な『粗大ゴミ』を抱え込む」と憂慮している。
この計画に伴い、近隣の生活者にも負担がのしかかる。都営霞ヶ丘アパートの立ち退き問題では、都は住民に事前相談なく、同アパートの立地を「関連敷地」と設定。昨年11月に住民説明会を開き、(1)15年10月頃に部屋割り抽選会を実施、(2)16年1月頃に都が用意した別の都営団地へ引っ越す――といったスケジュールを通告した。
50年代から同アパートに住む女性は、「ここは高齢者が多く、引っ越し自体がストレスになります。『移転しろ、というならここで焼き殺してくれ』とまで言う住民もいます」と憤る。舛添要一知事は昨年12月2日の会見で、「すべての人を100%満足させることはできないので、何らかの妥協はどこかでやっていただく」と述べた。
都が主体となる新国立競技場以外の建設費では、立候補段階の1538億円から現在は2576億円(昨年11月19日の都発表)と、1038億円も額が増えている。
華やかな五輪の底には、人々に犠牲を強いる構造が横たわる。
(永尾俊彦・ルポライター、1月9日号)
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