政府開発援助、11年半ぶりの見直しで“他国軍支援”可能に――テロ誘発懸念高める安倍首相
2015年3月4日5:26PM
日本の政府開発援助(ODA)に関する基本的な考え方をまとめた「開発協力大綱」(新大綱)が2月10日、閣議決定された。従来の「ODA大綱」(1992年策定、2003年改定)を約11年半ぶりに見直して名称を変更したほか、これまで認めてこなかった他国軍への援助も可能としているのが特徴だ。国家安全保障との関連で、ODAの「積極的・戦略的活用」を打ち出す安倍晋三首相の意向を色濃く反映している。軍と関係しない民生分野に限った支援を続けてきた日本のODA政策にとっては大きな転換だが、他国軍への支援によって日本国関係者への「テロ行為」を誘発するリスクが高まる――との懸念も根強い。
新大綱では、災害支援などの人道支援やインフラ整備といった非軍事的協力を基本とし、軍事や国際紛争を助長する支援は除外するとしている。ここだけを見れば従来の姿勢と変わらないが、新大綱は「軍や軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」との一文を書き加えた。内容が「非軍事的協力」であれば軍当局であっても支援を認めるとし、従来の原則を180度転換したのだ。
だが、他国軍への支援の基準となる「実質的意義」を、どのように「個別具体的に検討」するかについての具体的な記述はない。外務省国際協力局は「支援対象が軍に関係するものであればケース・バイ・ケースでしっかり見極める。軍事的用途に使用されないと判断された場合のみに支出する」と説明するが、それは原則論を述べているに過ぎない。また、どの省庁が最終的に判断し、責任を持つかについても不透明だ。
そもそも、他国軍が支援物資や資金をどう運用しているか把握するのは難しい。「軍事」と「非軍事」の線引きは容易ではなく、非軍事として行なった支援がいつの間にか軍事転用される、といった事態も考えられる。他国から見れば軍事支援と変わらず、国際的にはODAが軍事援助と同様に位置づけられてしまう可能性もある。ODAのあり方を国会がチェックする仕組みは整っておらず、実施した援助の使途を検証することができないとの批判も出ている。
【新大綱による損失も】
こうした動きに、国際NGO団体からは、活動に制約や誤解が生じかねないとの憂慮の声が出されている。現地事務所の代表として、02年から4年間アフガニスタンに駐在した経験を持つ「日本国際ボランティアセンター」(東京都台東区)の谷山博史代表は、日本がアフガニスタン本土に軍隊を派遣していなかったことから「住民からの信頼は高かった」と振り返る。戦禍で荒れる世界の紛争地を見ながら、現地で安全に活動するには「現地の人に受け入れられることが鉄則。武器を持たないことによる信頼が安全を保障する大きな力になる」と話し、新大綱の姿勢は「ODAが軍事戦略の一環ととらえられかねない。日本にとって失うものの方が大きい」と警鐘を鳴らしている。
一方、新大綱には「我が国の平和と安全の維持、さらなる繁栄の実現(中略)といった国益の確保に貢献する」と、初めて「国益」との文言が盛り込まれた。この背景を、政府関係者は「軍備増強を続ける中国の警戒感はアジア太平洋地域で共通のもの。ODAを使って、海洋安全保障での東南アジア諸国との連携を強化する必要がある」と説明する。中国の脅威論を傘に、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則撤廃と安全保障の方針転換を進め、その一環としてODAの活用を図ろうとする安倍政権の思惑がにじむ。
政権が「軍事優先」に舵を切る中で、ODAは日米同盟と中国との勢力均衡を維持するため、日本と危機意識を共有する国への「有効活用」のために使われようとしている。だが、目先の経済的利益のために世界の貧困解消に貢献するとのODAの本旨がおろそかにされてはならない。新たな態勢づくりの議論が急務だ。
(北方農夫人・ジャーナリスト、2月20日号)