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イスラム教徒から自粛要請が多数――どうする、ISの呼称問題

2015年3月9日10:15AM

IS(「イスラム国」)の呼称をめぐり、日本国内で議論が起きている。「イスラム国」という呼称が使われることが多いため、「イスラムへの誤解と偏見を生む」ことを懸念するイスラム教徒が多く、日本政府をはじめ、呼称を変更するメディアも出ている。

東京都内にあるイスラム教徒の礼拝所「東京ジャーミィ」は2月12日、日本のメディア向けに声明を発表した。一部にはこうある。

「報道の表現のなかで、何度となく『イスラム国』という表現が用いられてきました。……中略……イスラームという宗教がテロを行う怖い宗教という間違ったメッセージを日本の方々に伝えかねません」「影響力の大きいマスメディアで『イスラム国』といった造語を使うことを慎んでもらいたい」

駐日トルコ大使館をはじめ、日本にあるイスラム教関連の30団体以上も同様の訴えをしている。

ISは昨年6月末、イラク第二の都市モスルを制圧し、カリフ(預言者ムハンマドの後継者)制国家の樹立を宣言。呼称を「イスラミックステート」(IS)に変更した。この後、日本ではこれを日本語に訳した「イスラム国」との呼称が多く使われるようになった。

ただ、これ以降も海外の一部では、旧称が使われている。旧称は、アラビア語で「イラクとシャームのイスラーム国」(ISIS)。これを欧米や日本では、「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL)または「イラクとシリアのイスラム国」(ISIS)と意訳し、国連と米国政府は、「国家として認めない」「組織がイラクとシリア以外でも勢力拡大を狙っている」との立場からISILを使用する。だが「シャーム」という地域呼称は実は、広義ではその範囲がレバノン、パレスチナまで広がるとされるため、範囲の定義は曖昧とも言える。

この中、大部分の米メディアはISISを使用。英国ではISISとISの使用頻度がほぼ同じ。アジア諸国では、ISが主だ。

日本政府は今年1月末、「まるで国として国際社会から認められ、イスラムの代表であるかのような印象を与える」(安倍晋三首相)との理由から米国政府と同じくISILと呼ぶことを決定。公共放送のNHKは2月13日、「この組織が国家であるとうけとめられないように」と、「IS=イスラミックステート」との呼称を採用した。

一方、アラブ諸国でISは、ISISを意味するアラビア語の略称「ダーイシュ」と呼ばれている。これについて中東問題の研究者である同志社大学大学院の内藤正典教授は、「ISが嫌がるので、反ISの人は『ダーイシュ』を使うが、アラビア語を解する人の少ない日本で使う意味はない。不用意に現地で『ダーイシュ』と言うと、ISメンバーに密告される恐れがある」と指摘した。また、「『レバント』との地域呼称は、19世紀にフランスが中東への領土的野心をもっていた時代のもので、これを今、使う理由はない」ともしている。

【それで問題解決か?】

ただ、呼称を変えたからといって、問題が解決するわけではないとの意見もある。

「呼称を変えたから、これでイスラムへの偏見がなくなるとは思わないでほしい。中東情勢のこと、イスラム社会のこと、ムスリムのこと、これまで多くの日本人は無関心で過ごしてきた。こうした無関心からくる偏見は、呼称を変えたくらいでなくなるわけではない」

日本に住むイスラム教徒の女性は、本誌取材班にこう漏らした。げんに、ISの呼称についての議論は、組織名のみに焦点が当てられており、組織名の前に多くのメディアがつけている「イスラム過激派組織」「テロ組織」などといった枕詞への言及はない。

シリアで以前暮らしていたあるイスラム教徒は、「こうした表現こそが偏見を助長する。誰の立場からみた“過激”なのか」「イスラム=テロリストというイメージを助長している」と批判している。

(本誌取材班、2月27日号)

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