橋下市長と『週刊朝日』が和解も――被差別部落へ謝罪なし
2015年3月13日2:19PM
『週刊朝日』(2012年10月26日号)が掲載した「ハシシタ 奴の本性」の記事で名誉を毀損されたとして、橋下徹大阪市長が発行元の朝日新聞出版と筆者の佐野眞一氏に5000万円の損害賠償を求めた訴訟が今年2月18日、大阪地裁(相澤眞木裁判長)で和解した。訴訟記録によると、朝日新聞出版と佐野氏が「おわび」の文書を出し和解金を支払うが、金額は原告と被告との間で秘密にするとしている。
訴状は「出自を被差別部落だとすることは非難に該当しないだけでなく逆に非難すること自体が厳しく批判されるべきことで、そのことで原告の人格、思想、信条が非難されるように論難した」と主張。社会的評価が低下しプライバシー権も侵害されたとして、精神的苦痛への賠償を求めていた。
「おわび」で、朝日新聞出版は「出自を根拠に人格を否定する誤ったものでした。橋下市長に多大な精神的苦痛を与えた」とし、佐野氏は「理不尽な差別にいまなお怯えて暮らしている被差別部落出身者のことを思えば、反省しても反省したりない」と述べている。
だが、問題は残っている。橋下氏の場合は、『週刊朝日』側が謝罪する姿がテレビなどで公表され、損害賠償を求める裁判に訴えて和解金を得た。
一方、今回の記事によって「DNAをさかのぼる」「本性をあぶり出す」など憎悪に満ちた言葉によって、自分たちの身元も明かされるのではないかと恐怖に感じた被差別部落の人たちに対しては、公式の謝罪は一切なく、心を傷つけたことへの償いはなされていない(詳報は本誌14年8月8日号で筆者が記した「『週刊朝日』差別報道問題は終わったのか 果たされていない被害当事者への謝罪と責任」を参照)。ヘイト・スピーチと同様、不特定多数の差別被害者が救済される法制度がないことがネックになっている。
(平野次郎・フリーライター、2月27日号)