「慰安婦」問題めぐり名誉毀損――『文春』事件で提訴へ
2015年3月30日1:02PM
昨年4月に『週刊文春』(以下、『文春』)が掲載した「慰安婦」への聞き取り調査は失敗だったと断じた記事に関連して、文教大学教授の山下英愛氏が3月6日、フリージャーナリストの大高未貴氏を相手取り、600万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こした。『文春』は昨年の4月10日号で、聞き取り調査に参加したソウル大学名誉教授の安秉直氏が「失敗を“自供”した」とする大高氏執筆の記事を掲載。山下氏は安氏の依頼を受けて、記事に対する反論文を日本語に翻訳し自身のツイッターに掲載したところ、今度は自らが大高氏に攻撃され、インターネット上でも誹謗中傷にさらされるなど、名誉を傷つけられたとしている。
発端となった『文春』の記事は、1990年代に韓国で行なわれた「慰安婦」に対する聞き取り調査について、安氏が「実質的な調査失敗」を認めたとする内容。『文春』はこれを目玉記事の扱いで4ページにわたり掲載し、反響を呼んだ。
だが、この記事では、安氏の発言の趣旨がねじ曲げられているなど、大高氏の取材姿勢に問題があったことが本誌の取材で明らかになっている(本誌昨年9月12日号)。安氏によると、大高氏は仲介人のO氏とS氏を通じ、「慰安婦」の関連著書を出版するため話を聞きたいと依頼してきた。これに対し安氏は、純粋な研究目的であり、報道目的でないことを条件に依頼を受け容れると回答。昨年1月に、韓国で大高氏らと面会した。
だが、大高氏は安氏に何の断りもなく『文春』に記事を掲載した。記事を見た知人からの連絡で、安氏は面会時に話した内容が歪曲されて伝えられたことを知った。安氏は「報道しないという当初の約束が破られ、完全にだまされた印象だった。記事の内容も私の発言を意図的に解釈し、切り貼りしており、悪意に満ちている」と強く反発し、旧知の関係にある山下氏に相談を持ちかけた。
山下氏は、安氏が『文春』記事への反論として書いた「反駁文」を翻訳し、ツイッターに掲載した。だが、大高氏はこれらを山下氏による捏造文書であるかのようにユーチューブの動画で批判を展開。ここで大高氏は、山下氏を、かつて「慰安婦」に関する証言をしたが、後にその一部が創作だったことを自ら認めた吉田清治氏になぞらえ、「日本国内には詐話師が多い」などと発言している。
さらに大高氏は『文春』の昨年10月2日号に「安秉直のウソを暴く!」とする記事を掲載。山下氏が安氏に断りなく、一方的に記事への批判をツイッターへ掲載したととれるような内容を書いた。
これを受け、インターネット上では、山下氏に対し「ウソ吐き朝鮮系アホ教授」などの誹謗中傷が相次いだ。山下氏は、「事実でないことが流布され、社会的信用が著しく低下し、人格的価値の毀損を受けた」としている。安氏は、「『文春』記事掲載後の私とO氏とのメールのやりとりを通して、『反駁文』を書いたのが私であることを大高氏がO氏から聞き知っていたことは間違いない。それなのに、大高氏は山下氏に関するウソをばらまき続けた。このウソの意図がどこにあるのか探っていくことが必要」と語った。裁判の第一回口頭弁論は4月21日の予定だ。
(渡部睦美・編集部、3月20日号)