大手の春闘は好調だが、圧倒的多数は正社員と格差――非正規は生かさず殺さずか
2015年4月13日12:01PM
「これからが正念場。中小や非正規の仲間、組織、未組織にかかわらず(賃金の)底上げ、底支えに全力を挙げる」
連合(日本労働組合総連合会)の古賀伸明会長は、大手を中心とした春闘前半戦の結果を受けて開いた3月20日の記者会見で強調した。自動車や電機などの大手産別が3000円台の賃上げ(ベアなど)を勝ち取るなど2年連続での賃上げにも緩んだ顔は見せなかった。
連合は2015年春闘で、闘争の三本柱に「中小、非正規の底上げ底支え」を掲げた。20日の会見では大手の結果とともに非正規の賃上げ獲得状況も報告された。流通やサービス業の非正規労働者を組織するUAゼンセン同盟を中心に30近い回答が集まった。例年、非正規の回答は後出しとなるケースが多く、「正規と同時決着」に力を入れた結果だ。
非正規の労組員が1万6291人を数えるニトリ労組は、時給で30・5円(要求は37円)の引き上げで、平均時給は941・5円となった。スーパーのライフ労働組合(非正規・1万693人)も時給で30円(要求同額)の回答で平均時給は963円となった。流通・サービスでは20~40円の引き上げ回答が目立った。
それ以外の回答はまだ少ないが、KDDIは非正規の契約社員ら約3600人に対して一律4800円(月額)の引き上げを回答した。正規の2700円引き上げを上回る結果となった。また、日本郵政グループ労組(非正規組合員5万6735人)は、時給で10円(要求40円)の回答を引き出した。
こうした結果を見ると、非正規の賃上げも進んでいるように見える。しかし、非正規の圧倒的多数は労組に組織されていない。非正規の組織は、自動車総連が今春闘で非正規の組織化に結果を出すことを方針に掲げたといった進み具合だ。流通・サービス業では、パートなどの人手不足が顕在化していることもあり、労組のない同業他社に賃上げが波及する可能性は大きい。
だが、他の産業ではどうか。物流関連の下請けで働く非正規組合員は「5年前に900円で働き始めたが、1度も賃上げはなく最低賃金(東京都、888円)がすぐ後ろに迫っている」と悲痛な声を上げる。今春闘でも会社は「下請け単価が上がっていない」とゼロ回答だった。中小企業に本当に賃上げする原資があるかどうかは別にして、大企業が下請け価格を“適正化”しなければ、川下の賃上げが厳しいという構図が浮かぶ。
【東京メトロ本社前 座り込みに連帯の声殺到】
非正規の賃金は生かさず殺さずの低い水準に押さえ込まれている。そんな中、東京地下鉄(株)(東京メトロ)の地下鉄売店で働く契約社員で作る全国一般東京東部労組メトロコマース支部(後呂良子委員長)が、3月下旬に65歳を過ぎても希望する者は引き続き仕事をさせることを求め、東京メトロ本社前で座り込みを始めた。正社員とまったく同じ売店業務をしながら、賃金、一時金には大きな格差があり、手取りは月13万円前後。何年働いても退職金はゼロだ。
支部は団交などで3年以上にわたりこの問題を訴えているが、半年間の雇用延長を一度勝ち取れただけ。今回も「検討中」の回答だ。3月末には2人の組合員が定年を迎えた。組合員たちは「65歳以降も働かなければ生きていけない。正社員とのあらゆる格差を押しつけながら、定年だけは一緒か」と訴えている。
組合の訴えは共感を呼び、全国の労組や市民から連帯のメッセージが殺到しているという。長年ため込まれた非正規の怒りが吹き出している。今春闘では、賃上げ以外に、定期昇給や一時金、退職金の制度化に取り組む労組もある。けれど、まだ一部にすぎない。後呂委員長は言う。「すべての働く者が希望を持ち安心して暮らせる世の中にしたい」。当たり前のことが当たり前でない雇用社会に抗う座り込み。春闘が別世界であってはならない。
(東海林智・ジャーナリスト、4月3日号)