憲法施行68年、迫りくる“改憲”の足音――若者たちも戦争参加に“否”
2015年5月25日12:31PM
安全保障法制の与党協議や、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定など、“戦争法制”が進む戦後70年の今年、GW中の、憲法をめぐる動きに注目した。
【目標超えた3万人が集結】
施行から68年を迎える5月3日の憲法記念日、全国各地で「護憲」の催しが開催された。神奈川県横浜市の臨港パークで開かれた「平和といのちと人権を! 5・3憲法集会」(主催:戦争をさせない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会)には、およそ3万人(主催者発表)が集まった。主催者目標1万人を大きく超えたのは、危機感のあらわれだろう。
呼びかけ人の一人、作家の大江健三郎さんは、安倍晋三首相の米国上下両院会議演説(4月29日)について「米国では、日本が(平和憲法を超えて)集団的自衛権(行使)を決めたかのように報道されているが、日本人は賛同などしていない」と怒りをあらわにする。
神奈川県大和市から来た男性(66歳)は、昨年、話題になった「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会のメンバー。「(ノーベル賞の)ハードルは高いが、第9条を無視し、立憲主義を踏みにじる安倍首相に、少しでもプレッシャーを与えるためにも、今年も受賞をめざしています」と語る。
「沖縄では、辺野古基地移設に反対する座り込みや海上行動が、今も行なわれています」と、沖縄、基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表の高里鈴代さん。「みなさんが“憲法が危うい”と思うならば、辺野古基地建設をやめさせなければいけません」と沖縄への連帯を力強く呼びかける。
中高年層が目につく集会場で、「友だちと旅行する予定でしたが、今の政治状況をみて来なければと思った」と語るのは、東京・狛江市から参加した19歳の女性。憲法改正の国民投票の年齢が18歳に引き下げられようとしていることについては、「私は反対。選挙権もそうだが、引き下げるならば、学校教育でもっと(政治や社会の問題を)教えるべき」と述べた。
【船田氏、改憲は「分けて」】
一方の「改憲」側はどうか。
「改正の環境が整った。いよいよ中身の議論だ」などと登壇者が口を揃えたのは、主催者発表で約1000人が参加した「新しい憲法を制定する推進大会」(主催:新憲法制定議員同盟、会長・中曽根康弘元首相)。
5月1日、東京・永田町の憲政記念館で開催され、冒頭の発言は、中曽根氏、船田元(自民・憲法改正推進本部長)・小沢鋭仁(維新)の両衆院議員、続橋聡・経団連産業技術本部長らから出たもの。
船田氏は、「何回かに分けて、改正を発議する。3分の2必要なので幅広い合意を得るものに」と述べた。第9条に言及しなかったが、「何回かに分けて」の発言からは、この日、斉藤鉄夫衆院議員(公明)が語った「環境権の加憲」などで“お試し”し、2回目以降で「9条を」という鎧が、衣の下から透けて見える。自民党が「環境権」と共に“お試し”改憲の条項に挙げる「緊急事態、財政規律」には、小沢氏も「賛成だ」と明言した。
この日は前述の3党の他、民主・次世代の両党からも登壇。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して……」と規定する憲法前文を、平沼赳夫衆院議員(次世代)は「絵空事」と非難。松原仁衆院議員(民主)も「拉致問題の解決において了解できない」とした上で、「日本は排他的経済水域という準国境を持つ。ナショナリズムの高まりに呼応し、憲法は変えるべき」と述べた。
前述の船田氏は、自民党発行の『ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?』と題する漫画をPR。国民投票は、法改定を前提に18歳以上が有権者。漫画のターゲットは若者だ。ナショナリズムを刺激しつつ、「柔らかい媒体」(船田氏)で迫る。正念場の護憲の側は、若者の心に響く取り組みも必要だ。
【渋谷で若者にアンケート】
「9条を変えるのも、他国の戦争に参加するのも反対」――5月3日に東京・渋谷で実施された「若者憲法アンケート」の結果、安倍政権が進めようとしている集団的自衛権の行使に対し、圧倒的多数の若者たちが反対の声を上げた。「戦争の放棄」を掲げる憲法9条についても半数超が「変えるべきでない」と回答。若者たちの多くが安倍政権に異議を唱えている形だ。
連休でにぎわうJR渋谷駅前。「声をあげよう! 私たちの命と自由のために」をスローガンに、6月14日に東京都内で「若者憲法集会」の開催を予定している同集会実行委員会の黒津和泉さんらメンバー約10人が集結、ハチ公前にいる若者たちにアンケートへの協力を呼びかけた。「100人アンケート」と銘打ったが、約2時間で10代95人、20代15人、30代6人の計116人が回答。8割あまりが中高生、学生だった。
その結果、憲法は「どちらかといえば」を含めて「変えるべきでない」(37・9%)が「変えるべき」(26・7%)を10ポイントあまり上回った。9条については「変えるべきでない」(51・7%)が「変えるべき」(16・4%)の3倍超に。また、集団的自衛権については8割近くの77・6%の若者が知っており、海外での同盟国の戦争に「参加するべきでない」と答えた人が9割近くの87・9%に達し、「参加するべき」(9・5%)を大きく引き離した。
回答した人に話を聞くと、「平和が保たれているので9条は変えなくていい」(15歳・高校1年男子、東京都内)、「いくら米国と友好関係にあっても戦争参加は反対。とくにアジアの国々との友好を深めてほしい」(15歳・高校1年女子、東京都内と静岡県在住の二人)などと安倍政権批判の声が多かった。実行委では、憲法の平和主義が「若者にも根付いており、戦争に対する拒否感は強い」と分析、「自分が戦争に行くのではないかという危機感もある」とみている。
5月7日、衆院憲法審査会が開かれ、船田氏は憲法改正に向け、環境権、緊急事態条項、財政規律条項の3点について優先協議を提言。改憲論議が本格化しつつある。
(本誌取材班〈片岡伸行・山村清二〉+永野厚男・教育ライター、5月15日号)