青梅の梅林、ウイルス対策でネオニコ散布だが――害虫より人に危険な農薬
2015年6月12日1:11PM
たった一種類の害虫、アブラムシを根絶するために、東京の青梅市で今年4月からネオニコチノイド農薬(以下ネオニコ)の大量散布が始まった。
青梅の梅林はこの地域の観光名物である。2009年にそこの梅の木にわが国ではじめてプラムポックスウイルス(PPV)が確認された。このウイルスはアブラムシが媒介するとされ、東京都と農林水産省はこのウイルスの全国的な広がりを防止するためにアブラムシの根絶作戦を始めた。
青梅市の梅の公園「吉野梅郷」の1266本の梅はすべて伐採され、09年から12年、農家や植え木などの梅の木が約2万6000本伐採された。早期の梅の再植栽に向けて、地域住民が国にさらなる対策を要請したこともあり、住宅地にある梅の木などに今年からネオニコ散布が開始された。
ネオニコは欧米ではミツバチだけでなく生態系に大打撃を与え、子どもの脳神経発達にも悪影響を与える可能性が指摘されている。欧州連合(EU)は90年代からその危険性を察知し、13年12月よりネオニコ3成分を一時使用禁止にした。しかし日本では、EUの規制直後から農作物へのネオニコ残留基準を大幅に緩和し、使用促進に向けた動きが活発化している。
青梅市のアブラムシ防除の第1回は今年4月、2回目は11月、3回目は来年3月に予定されている。対象植物はウメ、モモ、スモモなど。散布薬剤はネオニコ系のチアクロプリド、アセタミプリドとフロニカミドである。この度の散布のターゲットは一般住宅地の梅の木なので、虫が死ぬことより住民の農薬による健康被害の方がよほど懸念される。
4月末に散布現場を訪れた時に驚いたのは、散布している人が市販のマスクをつける程度の防具で、安全な消毒だと思っていたことだ。「この消毒はまったく危なくない。明日になれば消えてしまうよ」。4人1組で住宅地の中の梅の木に集中散布していた作業者の言葉である。風のある日だったが誰も気にしていない。子ども達が家の外で散布の様子をながめていた。同日、公共施設も散布予定だった。
日本では農薬散布をしばしば「消毒」と呼び、青梅市の広報にもそう書かれている。しかし、ネオニコ散布は毒消しではなく、危険な毒をふることなのだ。この日散布された薬剤のバリアード(成分:チアクロプリド)は、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されており、3回目に散布予定のアセタミプリドも劇物である。
【薬剤散布より木の伐採を】
そもそも農薬散布の目的には、農作物を害虫から守るためや疾病を媒介する害虫を殺すことなどがある。今回は、アブラムシが梅のウイルスを媒介するとされたが、実際の調査からアブラムシが媒介する可能性は小さいとする論文が発表されている。だから、アブラムシを標的にした農薬散布にはあまり意味がない。梅ウイルスによる観光業への打撃などの経済的損失は大きいだろうが、それ以上にこの劇物指定の農薬を散布することによる生態系や人への影響の方がよほど心配である。
14年に国際自然保護連合(IUCN)、今年春には欧州アカデミー科学諮問委員会(easac)も、ネオニコが生態系に及ぼす甚大な影響を懸念する報告書を発表した。
しかも欧州食品安全機関(EFSA)は、ネオニコの3成分を一時使用禁止した直後、この農薬の2成分、青梅で散布予定のアセタミプリドとイミダクロプリドが子どもの脳神経発達に悪影響を与える可能性を指摘した。
住宅地でのなりふり構わない危険なネオニコの大量散布が始まっている。せめて幼い子どものいる家庭だけは薬剤散布ではなく、どうしても必要ならば木の伐採を選択すべきだろう。私たちは、ネオニコによる子どもの脳神経への危険性をよく住民に周知し、早急に散布中止を求めなくてはならない。今回の散布は、アブラムシを殺すだけではすまない強力な生物の殺傷力があるのだから、人間に影響がないはずはないのである。
(水野玲子・ダイオキシン国民会議、5月29日号)