翁長沖縄県知事や稲嶺名護市長ら15人――沖縄の“民意”を携えて訪米
2015年6月15日12:18PM
「米国が県民の意思を無視することはできない。米国も当事者だと伝えたい」――翁長雄志沖縄県知事は、那覇空港で行なわれた出発式で報道陣にそう語り、5月27日、米国に向けて出発した。成田空港経由で28日の朝(日本時間。以下同)にハワイ入りし、6月5日までの日程でワシントンを訪れる。5月17日に行なわれた3万5000人の県民が参加した県民大会の成功を受けて米国を訪問し、沖縄の“民意”である「普天間飛行場県内移設断念」を直接、米政府関係者に訴える考えだ。
空港には翁長知事を激励しようと、約150人の県民が集まった。訪米に同行するのは、県民大会で共同代表を務めた稲嶺進名護市長、城間幹子那覇市長、移設に反対する与党県議や那覇市議ほか総勢15人。「翁長知事を支持する民意は揺るぎないもの」として、米政府関係者に県民大会の決議文を直接手渡す。
30日午前(日本時間。以下同じ)に訪問したハワイ州で翁長知事は、祖父母が県出身の県系3世デービッド・イゲ州知事とホノルル市の州庁で会談。さらに、オスプレイの墜落現場(18日午前、同州オアフ島で訓練中に墜落)も視察し、米軍機の運用面で沖縄と格差があることに不快感を示した。
この後、30日からワシントン入りし、6月3日に国務省で国務省や国防総省当局者と会談した。このほかワシントンでは、米議会やシンクタンク、マスメディアなどの関係者とも面会。戦後70年経っても何ら変わらない沖縄の現実を訴えて日本時間の6月5日の夜に帰国する。
【主のいぬ間に分断と懐柔】
翁長沖縄県知事と稲嶺名護市長が訪米中で不在のなか、和泉洋人首相補佐官が30日に沖縄県を訪れ、国営の海洋博公園(同県本部町)を視察。大阪市の米映画テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の運営会社が沖縄県で新たに建設する方針のテーマパークに関し、国営海洋博公園が「候補地の一つである」と明らかにした。沖縄県側から同行したのは安慶田光男副知事。和泉首相補佐官は、沖縄の観光に特化した国家戦略特区が認定されれば、国は規制緩和をするなど全力で支援するとの認識を示した。
一方、市議会でUSJ誘致決議を行なった名護市のテーマパーク視察は見送られた。複数のマスコミ関係者は「名護市が候補地から外された」と口にした。USJ誘致で県と名護市を分断する企図か。
同月30日、政府が移設先の地元中の地元として厚遇してきた辺野古、豊原、久志の3区の振興策について協議する懇談会が新たに設けられ、初会合が辺野古公民館で開かれた。沖縄防衛局と総合事務局が地元との協議の場として設置を求めていた“振興懇談会”だ。政府側からは、沖縄防衛局と総合事務局、内閣府、防衛省の役人合わせて30人以上が詰め掛けた。
沖縄防衛局長、沖縄総合事務局長が揃って辺野古を訪れ地元の要望を聞くのは初めてとみられる。政府総掛かりで移設先の地元の要望を聞く姿勢をマスコミ向けに猛アピールした形だ。懇談会は冒頭5分だけ公開。1時間20分は非公開だった。懇談会終了後、会見した井上一徳沖縄防衛局長は、地元から挙がった要望として「集落排水整備、県道や市道の改修など」を明らかにした上で「地元の思いをくみ取り、何ができるのか誠実に検討する。振興策の実現にあたっては名護市との調整が必要なものもあるので、市側との協議も検討したい」と述べたが、地元からの要望のほとんどが市や県が事業主体となるべきものだった。しかし、沖縄防衛局側は広報担当職員を総動員して地元の要望を一字一句記録。今後、“振興懇談会”を継続させることで市と県の“管轄外振興事業”に着手したい思惑があることを露骨に見せつけた。
主のいない間にあの手この手でなりふりかまわず沖縄を翻弄する政府。しかし、沖縄県知事選挙で示された36万人の厳しい“民意の眼”が常に光っていることを忘れてはいけない。
(本誌取材班、6月5日号)