被爆地長崎の思い踏みにじる――不透明な3委員交代
2015年6月19日7:34PM
被爆地長崎の思いを世界に発信してきた平和宣言文の起草委員会で、3人の委員が突然、交代させられるという事態が起こり、市民の間に波紋が広がっている。
ことの発端は、今年4月中旬。平和宣言文起草委員会のメンバー15人のうち、長崎総合科学大学長崎平和文化研究所前所長の芝野由和氏、漫画家で「ながさき女性国際平和会議」代表の西岡由香氏、それに活水女子大学教授の上出恵子氏に対し、長崎市の平和推進課が電話で「任期の長い委員には交代していただく」と通告し、3人は今年の委員から外されたのだ。
平和宣言文の起草委員会は、広島にはない長崎独自の制度で、市長が1年任期で委嘱する。しかし芝野氏と西岡氏は15年、上出氏は7年にわたって選出されており、今回の交代劇は3人にとって予想外の出来事だった。
これまでの平和宣言をめぐっては、市側の当初案にはなかった、脱原発や集団的自衛権の問題について、起草委員会で3人は先頭に立って発言し、最終的に宣言に盛り込ませることに成功した。任期は3人より長い委員も他に複数いて、市側の説明には説得力がない。
5月29日には被爆者や被爆2世らで作る市民団体が、3人は「現在の状況に危機感を持っている識者」であり、「3人を排除した背景に何かがあるとしか思えません」とした公開質問状を提出し、市側の意図を質した。しかし応対した平和推進課長らは「“被爆問題の継承”などの観点から若い委員を新たに選び、結果的に3人が外れた」などと答えるにとどまった。
申し入れをした平野伸人氏は「委員の若返りと市側は言うが、82歳の新任委員もおり、説明になっていない。市の不誠実な対応に怒りを覚える」と述べた。
起草委員会の定数は20人であり、3人を追加しても問題はない。田上富久市長は市民の声に耳を傾けるよう強く求めたい。
(中村尚樹・ジャーナリスト、6月5日号)