年金情報流出で改めて浮き彫りになる危険――マイナンバーの通知延期を
2015年6月22日2:56PM
「警鐘と受けとめるべきです。共通番号(マイナンバー)の導入後に同じことが起きれば、影響はこのレベルでは済みません」
日本弁護士連合会(日弁連)情報問題対策委員会副委員長の水永誠二弁護士は、日本年金機構の個人情報流出をこう捉えている。
10月から全国民に通知される12ケタの個人番号によって結び付けられる予定の情報は、年金にとどまらない。税金、雇用保険、健康保険、福祉など、来年1月の運用開始時点で約100の行政事務と広範だ。政府は「対象の個人情報はまとめて一つのデータベースに収めるわけではなく、行政機関ごとに分散管理した上で暗号化してやり取りするので、芋づる式に流出することはない」と説明する。
これに対して水永氏は「共通番号は個人情報を開く『カギ』になるのです」と注意を促す。
共通番号制度開始後、ある行政機関から個人情報が流出したとする。あらかじめマイナンバーが知られている人であれば、漏れた情報に付いている個人番号と合致するだけで、その人の情報だと特定される。「個人番号は原則として生涯変わりませんから、氏名や住所、生年月日と照合する手間もなく迅速・正確にマッチングされてしまいます」と水永氏。
あるいは、さまざまな行政機関にサイバー攻撃を仕掛け、一つの個人番号をもとに特定の人の情報を盗み出すことも可能になる。
おまけにマイナンバーは「見える番号」。勤務先に知らせておかなければならないなど、民間を含めてたくさんの場面で使用を義務づけられる。必然的に、多くの人の目に触れることとなるのだ。番号を提示するたびに個人情報のカギをばらまいている、といっても過言ではない。
集められたマイナンバーを媒介に、漏れたり盗まれたりした個人情報が蓄積されて「闇のデータベース」が構築される可能性は高い。これらを悪用した詐欺やなりすましの被害に遭うおそれも出てくる。
それだけではない。市民団体「プライバシー・アクション」の白石孝代表は、希望者に来年1月から交付される「個人番号カード」に内在する問題も指摘する。
将来的に健康保険証、パスポート、クレジットカードなど多くの機能をこれ1枚に集約し、誰もが持ち歩かざるを得なくする構想があるからだ。本人確認をはじめ買い物や旅行、病気といった日常生活のあちこちでカードを提示するようになれば「すべての行動が逐一記録され、蓄積される。国家による国民の監視です」。
【医療情報への拡大を批判】
さて、今国会では、共通番号の用途を預貯金や特定健康診査(メタボ健診)などに広げる法案が審議されている。すでに衆院を通過したが、年金情報流出の発覚で参院の採決は先送りになっている。
これまで共通番号の利用範囲は税と社会保障、災害対策に限られ、よりデリケートな医療情報については個人情報保護の特別法制定が条件とされていた。だが、特定健診には血液検査や尿検査、血圧などのデータが含まれる。
「まぎれもなく医療情報で秘匿性が高い。医療情報を共通番号の対象にする足がかりではないか」。神奈川県保険医協会が6月5日に開いた講座で、田辺由紀夫・医療情報部長(医師)は法案を強く批判した。政府は5月下旬、カルテなどの診療情報を共通番号と連動させる方針も打ち出している。
白石氏は「マイナンバーに結び付く個人情報が増えることで、番号の価値は高まる。同時に、危険も拡大します」と警戒する。
2月に発足した「共通番号いらないネット」は6月8日、東京都内で記者会見し、拡大法案の廃案と個人番号の通知延期を訴えた。
政府は年金情報とマイナンバーの連携時期を遅らせる可能性を示唆したものの、共通番号制度そのものは予定通り導入する構えだ。
「共通番号ありきではなく、分野別の番号を個別・限定的につなぐ仕組みを採るべきです。立ち止まるなら、運用開始前の今しかありません」(水永氏)
(小石勝朗・ジャーナリスト)