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消費者庁による勧誘規制の特定商取引法改正案に反発する――訪問販売苦情トップの『読売』
2015年6月30日11:50AM
求められていない訪問販売や勧誘(不招請勧誘)に規制をかけようとする消費者庁の動きに、新聞業界が猛反発している。
消費者庁が検討しているのは特定商取引法の改正。訪問販売に関する苦情は年間約9万件あり、とくに高齢者や認知症患者に対し高額商品の契約を結ばせるようなケースが多発しているためだ。
とりわけ焦点になっているのが新聞の勧誘規制である。消費者庁の調査によると、この5年間に訪問勧誘がもっとも多かった商品は新聞の55・2%だった(2番目はインターネット回線接続の39・2%)。そのぶん苦情も多く、国民生活センターに寄せられた苦情件数を社別にみると、トップは読売新聞社(発行部数約920万)、次いで朝日新聞社(同約710万)、毎日新聞社(同約330万)と発行部数に比例し、以下のような実例があった。
「いきなり玄関に入ってきて、『小学校に上がる子どもがいる。契約してくれなかったらお金が貰えず困る』と紙を差し出され、無理やり書かされた」(90代女性)
「高齢で認知症気味の父のもとへたびたび訪れ、2年後から2年間の契約を結ばされた」(80代男性)
訪問勧誘をうけた人の96・2%が「今後は勧誘を受けたくない」としており、日本弁護士連合会や消費者団体も訪問販売の全面禁止を求めていた。こうした声を受け、消費者庁はこの4月から専門調査会で、審議を開始していた。
【禁止ステッカーに猛反対】
「新聞には百数十年の訪問販売の歴史がある。ステッカーという事前の拒絶で(訪問販売が)制限されるのは新聞協会として反対をしたい」
6月10日に開かれた専門調査会。参考人として出席した読売新聞社の山口寿一東京本社社長は規制に猛然と反対した。ステッカーとは、目下消費者庁が念頭に置いている「訪問販売禁止ステッカー」のこと。米国の一部の州やオーストラリアなどで採用されており、玄関先にステッカーが貼られている家への訪問勧誘を禁止する制度だ。消費者団体などが主張する全面禁止よりは緩いものだが、訪問勧誘で部数を維持してきた新聞業界には大きな痛手となる。
まきかえしを図るため、この日、新聞業界は「新聞は民主主義の維持と発展に寄与してきた」「表現の自由、知る権利が脅かされる」と“正論”をまくしたてた。
一方、新聞業界は水面下で永田町、霞ヶ関に猛烈なロビー活動も展開している。新聞協会の会長で読売新聞社前社長の白石興二郎氏が、消費者庁の動きを止めようと経済産業省の高官に会ったという情報があるのだ。
【自民党が援護射撃の決議】
6月4日には、自民党本部の7階で新聞販売懇話会が開かれた。テーマは新聞への「軽減税率」適用と特定商取引法の改正。会には新聞販売協会の河邑康緒会長が出席し「悪質商法と新聞を同じように規制することは問題」であると消費者庁を牽制。これに出席した議員らも同調した。「消費者庁はあまり過激なことを言わない方がいい」(務台俊介・麻生派)、「消費者庁資料には断片的な情報ばかりで新聞がこれまで果たしてきた価値は何も出ていない」(豊田真由子・細田派)。
同会の会長は丹羽雄哉議員(無派閥)、副会長には山本一太議員(同)、事務局長には国家公安委員長の山谷えり子議員(細田派)、顧問には総務相の高市早苗議員(無派閥)が就いている。同会はこの日、特定商取引法見直しに関する「慎重な検討」を求める要望書を決議した。
『読売』は渡邉恒雄グループ会長の意向からか、政権与党の政策に歩調を合わせることが多い。公明党が主張する軽減税率しかり、憲法学者から「違憲」と下された安保法制しかりだ。新聞が政権を支え、政権はそんな新聞を守る――こんな構図の下でいくら「民主主義の維持と発展」を叫び訪問販売規制に反対しても、説得力は持ち得ないだろう。
(野中大樹・編集部、6月19日号)
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