自主避難者の住宅無償化打ち切り 政府、福島県が決定――被災者を消す「凡庸なる悪」
2015年7月9日11:44AM
避難住宅無償化打ち切りに、批判の声が止まない。
「自宅の除染も進まない中、唯一最低限の権利である住宅無償化の打ち切りと避難住宅の有償化は、放射能汚染がゼロになるまで避難を続けたい私たちの意思に反して帰還を強制し、生活を困窮させるものだ。行政の原発事故の責任放棄であり、避難者の人権がないがしろにされている」。6月15日、ひなん生活をまもる会の鴨下祐也代表らは東京都庁で会見し、福島県の決定に抗議し撤回を求めた。
県はこの日、東京電力福島原発事故の避難者の仮設・借り上げ住宅の無償提供を2017年3月末までとし、その後、避難指示区域以外44市町村からの自主避難者(区域外避難者)は災害救助法での応急援助を打ち切り、新たな支援へ移行すると発表した。「地震・津波被災者は家が失われた(ので無償化を検討する)が、放射能の影響がある人には家がある(ので認めない)」(県担当者)という論法だ。
政府や県は12日にも、2017年3月までに居住制限と避難指示解除準備区域の避難指示を解除する方針を発表。帰還を加速させる。
福島県から岡山県に避難した大塚愛さんは「放射能の問題は個人差が大きいのが特徴で、それぞれの選択が認められることが大切。母子避難者や、何らかの身体症状が出た人も多く、長いスパンで子育てを考えて帰還は早いと思う避難者もいる。ところが県が示した代替策は帰還一辺倒。正直、がっかりした」と批判した。
県の担当者は「被災他県で打ち切られているのに、福島県だけ全市町村で6年目まで延長を認めてもらった。普通ではありえないことだ。私たちは限界までやった。今後は民間の家賃補助などの支援策を設計していくが、避難者の方々には、その間に身の振り方を考えてほしい」と自画自賛する。放射能災害の深刻さを無視し、避難実態と乖離した“支援”を被災者に押し付け、「やるだけやった」と国のご機嫌伺いの政策を正当化する、思考停止したアイヒマンのような「凡庸なる悪」(アーレント)が、原発被災者を消し去ろうとしている。
(藍原寛子・ジャーナリスト、6月26日号)
◆震災20年の兵庫は退去通告
阪神・淡路大震災から20年の節目。兵庫県では、自治体が被災者用借り上げ復興住宅からの転居強要通告を出して緊迫の度を強め、「復興」とはほど遠い様相を呈している。
背景には、自治体の公営住宅削減計画があり、「弱者切り捨て」で乗り切ろうとする自治体方針と、継続入居を求める住民側との矛盾が激化。自治体側の論理は「20年契約」だが、これは完全に“後付け”だ。入居当時、「恒久住宅」として運営する方針だったことは、神戸市の公式「復興誌」にも明記されている。同じ兵庫県でも宝塚市、伊丹市は、いち早く「希望者全員の継続入居」方針を打ち出して、この種の紛争は生じていない。
兵庫県下で最も早く、行政側のいう「20年期限」を迎えるのは、西宮市の市営西宮北口シティハイツ。同市は今年2月3日、市長名で27世帯53人に、9月30日を期限とする「全員退去」を通告した。根拠は、1996年施行の改正公営住宅法だが、入居当時、「20年期限」の規定はなく、ここでも法の適用を誤った“後付け”の不当性を裏付けている。住民らは、借り上げ復興住宅弁護団(佐伯雄三団長)と共同で抗議声明を出し、連携強化して闘う姿勢を鮮明にしている。
退去を求める事前通知は6月3日、神戸市内借り上げ住宅105カ所のトップを切って、兵庫区のキャナルタウンウエスト1~3号棟の8世帯9人にも出された。85歳以上、重度障がい者などの継続入居条件に該当せず、転居承諾の「完全予約制」に応募しないことなどが、その理由。夫と死別した生活保護の女性、難病通院の女性ら、生活困窮の「訳あり独居高齢者」が大半だ。神戸市は他に、車椅子の難病者に継続入居可能を知らせずに転居させ、元に戻さないなど、悪質な手口も国会で追及されている。
(たどころあきはる・ジャーナリスト、6月26日号)