横浜市立中で1年生に陸自演習見学を募集――予備自衛官の教諭が発案
2015年7月28日11:45AM
横浜市立中山中学校(横浜市緑区)で、1年生を対象に、陸上自衛隊が8月に東富士演習場(静岡県御殿場市)で実施予定の「富士総合火力演習」見学会への参加者を募っていることが分かった。
見学会を発案したのは社会科の男性教諭で、陸上自衛隊の予備自衛官二等陸尉。2年前に立ち上げた保守系の教職員組織「横浜教職員連盟」の会長も務める。
同校の1年生8クラスの生徒約290人に配られた案内プリントには「社会科の夏季学習を行います」と記され、8月18日の予行演習の見学会への参加希望者10人を募集した。申し込み多数の場合は抽選会を行なうとしている。
プリントには日程のほか、「公民的分野との関連」について、平和主義の単元に対応していることを説明。育鵬社の中学教科書の指導書から、観点別評価規準に挙げている文章を引用し、「平和主義が日本の平和を守るだけでなく、世界の平和に貢献する考えであることに気づいているか」「自衛隊が平和を守る組織として充実している事実を理解しているか」といった項目を列挙している。
陸自の「富士総合火力演習」は毎年8月に実施。戦車やヘリコプター、火砲などによる実弾射撃を間近で見られる人気イベントだ。昨年の一般公開演習には2万9000人が入場し、観覧入場券の応募倍率は24倍だったという。
小嶋貴之校長によると、社会科の男性教諭が自衛隊神奈川地方協力本部市ヶ尾募集案内所の広報担当に相談し、生徒10人分の入場券を確保したという。
「防衛省の考え方もあるが、小中学校・高校の生徒や大学生は優先的に見学の枠を取るようだ。コネで便宜を図ってもらったのではない」と校長は説明する。
「社会的事象について触れることで、社会科の学習のきっかけとして不適当でないと考えた。昨年度も実施した経緯と実績がある。希望者は保護者の同意を得て参加しており、公的機関が一般公開している催しなので認めた」
同校では同じ教諭の発案で、同様の陸自演習の見学会を2009年と2014年の2回実施している。いずれも3年生が対象で、1回目は1人が参加。2回目は15人が希望し10人が参加した。
今回は7月3日までに男女17人の希望者があり、抽選で参加者を選んだ。見学会は予定通り実施する方針だという。
同教諭は12年8月、海上自衛隊横須賀地方総監部に1年生18人を引率し、「海上からの地形図の読み取り学習」として海自の交通艇に乗船させた。
【教職員の会など中止を要請】
横浜市教育委員会指導企画課の三宅一彦課長も、「夏休みの自主的な学習の一つととらえている。保護者の承諾を得て、公的機関の催しに生徒が参加するのだから問題はない」との見解だ。
生徒たちが見学する陸自の演習が、関係者しか観覧できない一般非公開の「予行演習」であることについても、「先生方はそれぞれさまざまな経歴やコネクションを持っている」と理解を示した。
予備自衛官である男性教諭からは、市教委に兼職の届けが提出され受理されているという。予備自衛官は、自衛隊に1年以上勤務した元自衛官らが対象で、有事の際は駐屯地警備に就くほか、年間20日以下の訓練招集などの任務がある。月額4000円の手当と、日額8100円の訓練招集手当が支給される。
一方、教育関係者や保護者からは、「中学1年生はまだ未成熟。影響は大きく問題だ」と、反発や批判の声が上がっている。
「子ども・教育・くらしを守る横浜教職員の会」は、「結果的に自衛隊はカッコいいという感情を育てる洗脳教育になってしまう恐れがあり、公教育として許されない」と指摘し、見学会の中止を市教委に要請した。
独立系教組の「横浜学校労働者組合」は、「自衛官募集のための行動と見まがうばかりで、教育の中立性・公正性を著しく欠く」として、中止を申し入れた。
(池添徳明・ジャーナリスト、7月17日号)