総裁選は無投票再選でも、強行採決回避の思惑は外れる――安倍政権の“維新工作”頓挫
2015年9月15日10:32AM
谷垣禎一幹事長ら自民党執行部は総裁選を「9月8日告示・20日投開票」に正式決定、安倍晋三首相の無投票再選の見通しが強まっている。永田町ウォッチャーは「20人の推薦人確保の目途が立っていない野田聖子・元総務会長が水面下で賛同者を募り、一気に出馬表明をすれば、安保法制成立は危うくなる。事前に漏れると潰されるので極秘に進めている可能性はゼロではない」と語る。
一方、安倍政権が意欲を示していた「維新の党との修正協議」は頓挫する見通しだ。当初は、衆院段階では合意に至らなかったものの、参院でも維新独自案(対案)の早期提出を呼びかけ、与党協議の再開にも意欲的だった。これを受けて維新は8月20日に8本の対案のうち5本を提出、与党協議も28日に再開したが、一転して高村正彦副総裁は27日、「(維新との)話し合いには真摯に対応するが、維新が一本にまとまってくれるか慎重に見ないといけない」と述べ、消極的な姿勢となった。「安倍政権は、修正協議で参院での強行採決は回避したいと考えていた。しかし維新分裂が決定的となり、執行部が政権対決姿勢を強めることが確実なため、自民党の思惑が外れた」(永田町ウォッチャー)。
安倍政権の“維新工作”頓挫は、党内闘争で大阪組が執行部に敗北したことを意味する。山形市長選の野党系候補を支援した柿沢未途幹事長辞任を強く求めた松井一郎・大阪府知事(維新の党顧問、当時)は、25日に菅義偉官房長官と面談。この頃、後任幹事長として大阪組の馬場伸幸国対委員長の名前も挙がっており、安保法制の修正協議を左右する幹事長ポスト争奪戦の様相を呈していた。
柿沢幹事長は、小林節・慶應義塾大学名誉教授らから「合憲」の評価を得た独自案作成に尽力した中心人物。与党協議についても「独自案のつまみ食いは許さない」と自民党に強い姿勢を示していた。結局、「党のルール違反をしたわけではない。辞任する必要はない」(松野頼久維新の党代表)とする党執行部の意向は固く、「幹事長ポストを奪取して修正協議で安倍政権と妥協する」というシナリオが実現することはなかった。
一連の経過を辿ると、29日の橋下徹市長(維新の党最高顧問、当時)の「大阪維新の会」の新党結成宣言は、「官邸別動隊」「第二自民党(与党補完勢力)」と呼ぶのがぴったりの大阪組が本性を露呈したといえる。本来なら橋下氏は「維新独自案を丸呑みすべき。違憲法案を強行採決なら安倍政権を打倒する」と訴えて執行部を後押しするのが普通なのに、実際には天下分け目の決戦を前に“御家騒動”を引き起こし、安倍政権から法案根幹部分の修正(違憲法案を合憲法案に変更)を勝ち取ろうとする執行部の足を引っ張った。
「国民の奴隷ではない」(大阪都構想投開票日の会見)と断言した橋下氏だが、「安倍政権の“下僕”(補完勢力)にはなる」と勘繰られても仕方がないだろう。
【「非自民」の受け皿なるか】
すでに維新非大阪組の間では分裂を見越した動きも始まっていた。
8月24日の区市町村議員団研修会で、かつて橋下氏のブレーンで、今は「フォーラム4」を設立した元経産官僚の古賀茂明氏が講演。「『改革はしないが戦争はする自民党』に対決するには、『改革はするが戦争はしない』という第四象限(フォーラム4)の政党が不可欠。維新も民主もこの立場の政党になるといい」と助言した。「安倍政権と対決するのか接近するのか分からない曖昧政党から脱却すれば、非自民党の受け皿になる」という考え方である。質疑応答では、「橋下氏は安倍政権に接近、『公武合体(幕藩体制の再編強化)』をしようとしている。『維新』を名乗っているのに進む方向が正反対」といった批判が次々と飛び出し、古賀氏に賛同する声も相次いだ。
橋下氏の新党結成宣言で、非大阪組の維新が民主党に接近、安保法制反対の野党共闘が進むのは確実。非自民の受け皿作りが一気に加速する可能性が出てきたといえるのだ。
(横田一・ジャーナリスト、9月4日号)