集中協議決裂で浮き彫りになった政府と沖縄の溝――埋め立て承認を取り消しか
2015年9月28日10:43AM
沖縄県名護市辺野古への新基地建設をめぐる政府と沖縄県の最終集中協議が9月7日、官邸で開かれた。期間中、政府は移設作業を1カ月間停止し、事務方レベルも含めて合計5回の協議を行なった。最後の協議には安倍晋三首相も出席したが、双方の認識の隔たりは大きく、相互不信は払拭されないまま決裂した。先月29日に那覇市内で行なわれた4回目の協議後、沖縄県の翁長雄志知事は「協議を続けても厳しい状況ということははっきりしている」と記者団に語っていた。菅義偉官房長官も「著しく距離感がある」と同様の認識を示していた。
これまで5回にわたり先行きが見えないまま双方が“主張だけ”の協議を続けたことで、戦後70年間も放置され続けてきた現実がクローズアップされ、結果、焦燥感だけが残った。
これから翁長知事は、前知事が行なった埋め立て承認の取り消しへ向け大きく舵を切ることになる。知事は、圧倒的民意で勝利してきた昨年一連のすべての選挙(県知事選・衆院選)を盾に最高裁まで徹底的に争う構えを見せているのだ。政府と沖縄県が法廷で「全面対決すると不利な状況になる」というのが官邸側の本音だが、政府側が辺野古新基地建設を断念しない限りこれは避けられそうにない。
安倍政権が沖縄県側との協議を続けてきた背景には、安保法制の強行採決や自民党総裁選などを抱え、これ以上安倍政権の支持率を下落させるわけにはいかない官邸の台所事情がある。
また、官邸は来年1月の沖縄県宜野湾市長選挙に照準を定め、自民党沖縄県連(島尻安伊子会長)は県内各地で安保法制の正当性と基地返還跡地利用や再編を受け入れる自治体向けの活性化策を訴える街宣活動を積極的に行なっている。名護市で先月の15日に確認されているだけでも8カ所で街宣を行なった。自民党沖縄県連の訴えを直接聴いた名護市民はそのあまりに無理な主張に驚いたという。
衆議院沖縄3区で敗れ、比例で復活当選した比嘉奈津美氏は「沖縄は全国一経済成長している。仲井眞弘多前知事が8年間で基礎を固めた。この間、翁長知事を連れて直接安倍首相に会わせ沖縄振興の予算要求したのは私たちだ。国政与党のパイプを使った」と訴えたのだ。前出の名護市民は「『予算要求したのは私たち』というのはわかるが、沖縄県民はすべての選挙区で自民党候補者を落選させた。民意は無しか!」と語気を強め怒りをあらわにした。
【「島ぐるみ会議」に結集】
そんななか「戦後最大の基地闘争になる」と語るのは、沖縄建白書を実現し未来を拓く島ぐるみ会議事務局長の玉城義和沖縄県議会議員(名護市選出)だ。「島ぐるみ会議」(通称)とはオスプレイの配備撤回と普天間基地の閉鎖と返還、県内移設断念を求めて県内各地に自主的に立ち上がった反対運動の住民組織。沖縄県41市町村のうちこれまで結成済みや準備中も含めると9月7日の時点で31の市町村で結成されている。
島ぐるみ会議事務局によると、9月21日と22日にはスイスのジュネーブで開かれる国連人権理事会に翁長知事が出席し本会議場で声明を発表する。人権理事会のイベントでも翁長知事の演説を予定しており、政府と沖縄県の埋まらない溝を直接国際世論へ訴える。
さらに、先週末の5日には移設予定地近くの米軍キャンプ・シュワブのゲート前で「工事の再開を許さない県民集会」が開かれ主催者発表で3800人が集まった。参加者は「新基地はいらない。美ら海守れ。安倍政権は退陣せよ!」と声を上げた。名護市の稲嶺進市長は、政府と県が移設に関する集中協議のため、埋め立てに向けた作業を中断していることに触れ「1カ月間、止めることができるなら、これからも可能だ」と移設阻止に向けた決意を表明した。
今後、翁長知事は、前知事の埋め立て承認を取り消す手続きを加速させる一方、辺野古移設に関する「県民投票」実施の動きもあり、注目される。
(本誌取材班、9月11日号)