国側は「適法だった」と主張――旅券返納裁判始まる
2015年11月6日5:41PM
シリアへの渡航計画を理由に、外務省にパスポートを強制返納させられた新潟市のフリーカメラマン、杉本祐一さん(58歳)が国を相手取り、返納命令などの取り消しを求めた訴訟が10月14日、東京地裁で始まった。パスポートの返納命令は原則として、聴聞など意見陳述の手続きを経ることが必要(行政手続法)だが、国側はこれを行なわずに、杉本さんのシリア行きを把握した翌日に返納命令を発出。そのような緊急性はなかったとする杉本さんに対し、国側はそれ以外の手段によってシリアへの渡航を中止させるのは困難で、措置は「適法だった」と主張し、杉本さんの訴えの棄却を求めた。
国側の答弁書などによると、外務省は今年2月5日、杉本さんが2月27日からシリアへの渡航を計画していることを前日4日付の『新潟日報』で知った。5日夕刻に約30分、同省領事局海外邦人安全課職員が渡航中止を電話で求めたが説得できなかったため、翌6日に岸田文雄外務大臣がパスポートの返納命令を発出。翌7日には同省同局旅券課職員が杉本さん宅を訪れ、パスポートを返納させた。国側は、杉本さんが新たな航空券を購入して予定より早く「密かに出国」したり、知人宅に「潜伏」する可能性があったため、「意見陳述のための手続きを執ることができな」かった、「緊急に」返納させる必要があったとしている。
杉本さんは、「たった一度の電話と、『潜伏』の可能性などとの憶測だけで、渡航の自由を制限する判断がされたのはおかしい。直前に日本人二人が殺害されたIS(「イスラム国」)事件があり、世論の政権批判の高まりを恐れ官邸が焦って指示をしたという点も裁判で明らかにしたい」としている。杉本さんは、4月にイラクとシリアへの入国を禁ずる制限付きパスポートの発給を受けたが、これも聴聞が必要な措置だと裁判で訴えている。次の口頭弁論は12月9日だ。
(渡部睦美・編集部、10月23日号)