4000人が伊方原発再稼働阻止の声を上げた全国集会とデモ。（11月１日、松山市。撮影／斉藤三郎）

愛媛県の中村時広知事が10月26日、四国電力伊方原発３号機（愛媛県伊方町）の再稼働に同意した。２０１１年に東京電力福島第一原発事故が起き、原発の新規制基準ができて以降、九州電力川内原発（鹿児島県）に続き２例目の地元同意完了。「年明け以降に再稼働の見通し」と報じられているが、根本的な疑問は放置されたままだ。

細長い佐田岬半島の付け根にある伊方原発の沖合６～８キロメートルには国内最大の活断層・中央構造線断層帯が走る。高知大学の岡村眞特任教授らの調査によると、マグニチュード８を超す地震を２０００年周期で起こし、前回の地震から２０００年経っている。このため伊方原発再稼働に関する最大の懸念は、巨大地震発生時の耐震性と住民避難、とりわけ地震と放射能災害が同時に襲う「原発震災」に対応できるか。放射能に行く手を阻まれ、あるいは追われたとき原発西側の半島住民は逃げることができるか。地滑り地帯の半島では避難路が崩れ、津波が来れば船も使えず陸の孤島になるのではないか――だった。

中村知事は再稼働に関して「白紙」と言い続けてきたが、10月６日に政府の原子力防災会議で安倍晋三首相が伊方原発重大事故時の対応について「責任を持って対処する」と述べたことなどを評価し、20日後の同意となった。

だが、首相は原子力災害対策特措法にある国の責務を言っただけに等しい。首相は「伊方地域の避難計画を含めた緊急時対応は『具体的かつ合理的』と報告を受け、関係自治体・省庁が参加した地域原子力防災協議会での確認をもってこれを了承した」とも述べたが、防災会議は避難計画を審査する機関ではない。それ以前に、避難計画策定は自治体任せで、点検する仕組みが政府にはない。米国ＮＲＣ（原子力規制委員会）の審査が避難計画の実効性を含めて原発の運転可否を判断するのと対照的に、日本の原発は避難計画が規制委の審査対象になっていないのだ。

地元同意で、30キロ圏のうち５市町長は再稼働など重要事項決定への権限がないことから中村知事に委ね、知事は首相発言を判断の大きな拠りどころの一つにした。だが、その首相の言葉は内容に乏しく、実際に重大事故が起きた場合、責任の所在は曖昧だ。

【巨大地震に耐えられるか】

かつて働いていた三菱商事では伊方原発で新人研修をしたこともある中村知事。福島原発事故の後、長期的には脱原発が必要だが当面は安全策を講じながら利用せざるを得ないとの立場をとっているが、今回の同意判断は後段だけに従ったことになる。住民説明会を開かなかった理由を「（反対派の）パフォーマンスになりかねない。一番丁寧なのは（四電の）戸別訪問」と発言したことと合わせ、多くの県民が疑問視するところだ。

２２１ガル（最強地震動）、４７３ガル（限界地震動）、３５０ガル（最強地震動）、５７０ガル（基準地震動）、６５０ガル（基準地震動）。伊方３号機の最大の揺れ想定は各地で強い地震が観測されるたび国の指針改定に伴って見直され、引き上げられた揺れにも補強工事などで耐えられるとされてきた。また、県の要請を受けた四電は規制委審査と別に独自の評価を行ない、３号機の重要機器は「おおむね１０００ガル」の揺れにも耐えられる余裕があり、余裕の小さい機器は耐震補強したと発表している。それでも専門家から過小評価の指摘は絶えない。

次の大地震が起きれば、さらなる指針改定や基準地震動引き上げが進む可能性は高いだろう。次の次も、その次も。そうやって後付けのかさ上げを続けた末、いずれ来る巨大地震に伊方原発や国内のほかの原発は耐えられるだろうか。

福島では30キロ圏など関係なく放射能雲が流れた。そのとき伊方の風下になるかもしれない愛媛、四国、中国、九州、閉鎖性海域である瀬戸内海はどうなるだろうか。それは起きてみなければわからない。確実な防災計画は一つ。再稼働させないことである。

（斉藤三郎・著述業、11月６日号）