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マイナンバー違憲訴訟、全国7カ所で来月提訴へ――個人番号の使用差し止めを

2015年11月18日10:20AM

多くの市民が疑問と不安を払拭できないまま、10月5日に施行され、通知カードの配達が始まった共通番号(マイナンバー)制度。「憲法に違反する」と主張する弁護士グループが中心になって、国に対し個人番号の使用差し止めなどを求める民事訴訟を12月1日にも全国7カ所で起こすことになり、その概要が固まった。

「制度の問題点を洗い出し、広く明らかにして歯止めをかけたい」

マイナンバー違憲訴訟・東京弁護団の水永誠二弁護士は、提訴の狙いをこう語る。

違憲訴訟の根拠とするのは「自己情報コントロール権」。憲法13条に由来し、自分のプライバシー情報の取り扱いを自己決定できる権利のことだ。

この権利によれば利用の目的や相手に応じて個人情報の提供に同意するかどうかを決められるのに、同意のないまま行政機関に共通番号付きの個人情報を収集・利用される制度は違憲だ、という論理である。制度の目的や費用対効果が不明確で必要性に乏しいことも、違憲性を裏づける材料にする。

訴訟では国に対し、(1)原告の個人番号の収集、保存、利用、提供の禁止、(2)原告の個人番号の削除、(3)一人あたり10万円の慰謝料支払い、を求める。

「判決の効力は原告に限られますが、住民票があるすべての国民・外国人への適用という大前提を崩して制度の見直しや廃止につなげたい。国が使えなくなれば、民間の番号収集をストップさせる効果もあります」(水永氏)

訴状では、まず制度の危険性を取り上げる。多分野をつなぐ仕組みで利用事務が広範な上、政府は運用開始前から用途拡大を進めており、「プライバシーに対する危険性は非常に高い」と強調する。

現在の危険性として、(1)マイナンバーを媒介に生成される官民の膨大なデータベースなどから個人情報が漏洩する、(2)個人情報がマイナンバーによって名寄せ・突合される、(3)なりすましに悪用される――といった点を列挙する。

また、成長戦略の手段としてマイナンバー制度の利活用が促進され、個人番号カードに健康保険証などの機能が付加されて利用を事実上強制される恐れも強いことから、「近い将来における危険性が増大している」と警鐘を鳴らす。

にもかかわらず安全対策が不十分なことも、訴訟のポイントだ。

政府は制度面での安全対策として、マイナンバー取得・保管の制限や本人確認の厳格化、第三者機関による監視などをPRしている。これに対し、不正取得や闇のデータベース化が予測されること、個人番号カードを常時携帯する危険、第三者機関の態勢不備などを挙げて反論する構えだ。

システム面の安全対策としても、個人情報を行政機関ごとに分散管理し、個人番号は符号化してやり取りすることが謳われているが、「年金情報流出のような事態が起こり得るし、民間で漏れる可能性もある」と異を唱える。

【住基ネットと前提異なる】

共通番号の土台の住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が2002年に稼働した際も全国で違憲訴訟が起きた。大阪高裁などで違憲判決も出たが、最高裁は08年に合憲と判断した。

しかし、水永氏は「住基ネットで扱うのは氏名、生年月日、性別、住所といった本人確認のための個人識別情報ですが、マイナンバーの対象は税、社会保障などの機微情報で、前提が全く異なります」と今回の訴訟との違いを説明する。

マイナンバー違憲訴訟の提訴先は、仙台、新潟、金沢、東京、名古屋、大阪、福岡の7地裁。それぞれ原告・弁護団を編成する。

東京訴訟では原告として、医療・福祉関係者、税理士、地方議員、性同一性障害の当事者ら、共通番号制度との関係が深かったり大きな影響を受けたりする人を中心に30~50人を想定している。

大阪訴訟では原告を一般公募している(問い合わせ/辰巳創史弁護士 TEL 072・221・0016=堺総合法律事務所)。100人規模をめざすという。

(小石勝朗・ジャーナリスト、11月6日号)

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