採用と引き替えに性的関係を強要──トヨタ系列企業幹部による就活女子大生セクハラ事件(成田俊一、その2)
2015年11月30日6:15PM
「関係が持てないなら……」
名古屋市内のキャバクラでアルバイトをしていたA子さんが客として来店していた豊田氏と初めて知り合ったのは今年の夏だった。A子さんは、豊田氏と知りあうひと月以上前の6月13日にアイシンAWが実施した会社説明会に参加しており、8月1日の筆記試験と第二次面接の直前に、偶然にも豊田氏と知りあう格好となった。
ここから、A子さんと豊田氏のメールのやりとりが始まる。第二次面接を通過し、8月28日の最終面接が迫ってくるにつれて、豊田氏のA子さんに対する“本音”があからさまに出るようになる。以下は、ふたりのメールのやりとりの核心部分だ。
豊田氏――あなたの意思はわかりました。僕と関係が持てない以上、僕もあなたを自分の親類として会社に入れることはできませんので、最終は諦めてください。私から月曜日に人事に断りを入れておきます。
A子さん――アイシンAWに入る為には豊田さんと一度男女の関係を持てばいいということですか?
豊田氏――あなたを僕の縁者として会社にいれるのに、何の保証もないから、二人だけの秘密を確実なものにするためです。今の時点で、あなたの実力だけでは、最終で受かることはありませんから、今日頑張っても残念な事になってしまうね。
(中略)
A子さん――では男女の関係を持つ以外他の方法、例えばモノで見返りという形にはなりますでしょうか?
豊田氏――モノ??(笑) そういうのは、いらないよ~。ただね、僕も関係を持った人とそうでない人とでは、自分自身の責任感が違ってくるよね。僕だってあなたに対して気持ちや情だってあるから、こうして連絡してるんだよ。
(中略)
豊田氏――残念ですが、うちの会社の内定は絶対にさせないので、どこか他を当たってください。これであなたとの連絡もおしまいにします。無駄な時間と労力を費やしてご苦労さまでした
豊田氏のメッセージの意図は単純だ。最終面接に合格したければ、最終面接前に自分とセックスをしろというおぞましい強要行為である。豊田氏の予告どおり、A子さんはアイシンAWの内定を取れなかった。最終面接で落ちたというべきか、落とされたというべきか。日本を代表するトヨタ系列のアイシンAWの学生採用の最前線で、同社の中間幹部社員が自社に就職を切望する女子大生に対してあろうことか、肉体関係を交換条件にするという反吐の出るような事実には驚愕、閉口するしかない。
上記以外にも、豊田氏がA子さんに送ったメッセージの中には「まぁ普通にリラックスして受けて下さい。ちゃんとパスさせますので!」と、あたかも採用の約束をするような内容があったり、「8月26日中に電話かLINEがなかったら、本当に今回の件はなかったことにするよ」という脅迫に近い内容もある。
さらに、最終面接を落とされたことを知った上で「これからも時々ご飯とか食べに行く位の関係でいいかなぁって思った。あとは、あなたのお友達を紹介してくれたりね。貴重な人材を逃がした気分です。縁がなくてとても残念だな。」と、肉体関係を断わったA子さんに対し別の女性の斡旋まで求めるという信じがたいメッセージまで送っている。
大企業の管理職という社会的立場にある豊田氏とは、いったいどういう人物なのか。自身がやっていることが人間を傷つける悪質な行為だという認識はないのか。
A子さんは筆者の取材に対し、こう胸の内を明かした。
「誰もが入社したい会社でしたし、豊田さんの言葉も最初は信じていました。ですが、身体の要求をお断りした時点で最終面接は落ちると覚悟しました。でもこんな要求は許せなかった」
(なりたしゅんいち・ジャーナリスト。11月6日号=肩書き等は掲載当時、つづく)