採用と引き替えに性的関係を強要──トヨタ系列企業幹部による就活女子大生セクハラ事件(成田俊一、その3終)
2015年11月30日6:23PM
脅迫めいた匿名郵便物
筆者が豊田氏とA子さん一件を記事にしようと決めたのは、メール文面の強迫性以上に、さらに許しがたい事実を知ったからである。最終面接で落ちた2日後の8月30日の消印で、A子さん自宅の父親あてに、一通の匿名郵便物が届いている。その内容は、A子さんを誹謗中傷した上、脅迫としか言いようのない文言を並べているのだ。
この郵便物は脅迫の証拠物となるため誌面では公開しないが、わざわざ匿名で投函されたこの郵便物には、いかなる意味があるのか。A子さんが肉体関係を拒否したことと何らかの因果関係があるのか。そもそも誰が投函したのか――。いずれも目下解明中だ。
アイシンAW広報の反応もいささか奇妙である。10月20日、筆者が電話取材をすると、「それは個人のことであり、会社とは一切関係ありませんので取材は拒否します」と逃げたのだ。
大手企業の広報であれば、取材の趣旨が企業倫理を逸脱した犯罪的行為に近いと指摘されたことについて決して逃げはしないし、取材拒否もしない。大企業であればあるほど企業のコンプライアンス(法令遵守)に敏感だ。
しかも昨今は、女性の活躍が安倍政権の命題にもなっている。こんな時代状況下で、アイシンAWという会社の危機管理能力はあまりにも低俗だ。豊田氏の名前と所属ポストまで明確に指摘しても「その名前の人物は在籍はしていますが、あなたが言うその名前の人物かどうかはわからない」と、のらりくらり、かわすのだ。
そこで「写真付きの名刺があるので確認したい」と要求したが、「会社とは一切関係がありませんので取材は受けられません」と、またたく間に電話を切った。豊田氏本人にも繰り返し取材を申し込んだが、現在に至るまで一切の返答はない。
A子さんが遭遇した性的関係の執拗な要求の実態を聞いた名古屋共同弁護士事務所の中谷雄二弁護士は「それは事実であれば酷い。相手方本人とこの企業の責任を明確にする必要がある」と断言した。当然A子さんは、法的措置に向けた準備に入っている。
(なりたしゅんいち・ジャーナリスト。11月6日号=肩書き等は掲載当時)