農業予算見直し派とバラマキ派のチグハグ目立つ自民党――場当たり的なTPP対応
2015年12月1日11:20AM
TPP(環太平洋戦略経済連携協定)をめぐって与野党が激突している。11月10日の衆議院での閉会中審査では、政府・与党が年明けの通常国会で農業振興予算の補正予算成立を目指しているのを野党が問題視。民主党の玉木雄一郎衆院議員は「影響のデータがそろっていないのに急いで対策費を計上しようとするのはおかしい」と問い質し、安倍晋三首相から「年内にはわかりやすい形で経済効果の分析結果を示す」との答弁を引き出した。その上で玉木氏は「それでは農業対策ではなく選挙対策」と批判した。
民主党は毎週、経済連携調査会でTPPについて関係省庁からのヒアリングを続けているが、11日の会合で篠原孝衆院議員は、農林水産省の「品目毎の農林水産物への影響について」(配布資料)に「TPP合意による影響は限定的と見込まれる」との結果分析が並んでいることを疑問視。「長野県では農産物生産が『392億円減少(13年実績比で14%減)』の試算が出たが、『影響は限定的』とはいえない。全国で同じような試算をすべきだ。TPPによる生産減少額が不明確なまま、農業対策が打てるはずがない」と語気を強めた。
【自民党内にも募る不安】
同じような批判は、農業関係者からも出ていた。自民党は6日から8日まで「TPP地方キャラバン」を実施。全国7道県を回り、TPPについて農業関係者と意見交換をするもので、小泉進次郎農林部会長も6日と7日に兵庫県での意見交換会に出席。そこで若手農家からこんな指摘が出たのだ。
「TPP自体より(自民党の)拙速な短期的対策の方が不安。構造改革や農業予算見直しなど、中長期を見据えた対策作りが大切だ」
小泉氏はこの発言を高く評価。前農林部会長の齋藤健副大臣も「ガットウルグアイラウンド以降、71兆円の予算が投じられたのに農業生産額は減少した」と農業予算見直しの必要性を説いた。
しかし同日の高知県での意見交換会では、西川公也元農水大臣が「民主党が6割減らした土地改良(農業土木)予算を元に戻す」と旧来型農業予算復活を宣言した。
「民主党政権の時に5772億円あった土地改良予算は63%削られて(2135億円となり)、(安倍政権誕生後に)我々が復活しても3588億円で、今までも2184億円足りない。それで何年で戻すのかを二階俊博・土地改良連合会会長と相談、私は3年、二階会長は2年と思っておりますので、なるべく早く戻したい」
民主党は政権時代、農道整備や農地保全などを目的とする「土地改良事業」を効果が乏しいとして減額する代わりに、農家への直接支払の戸別所得補償制度を充実させた。これを評価する農家は少なくなく、高知での意見交換会でも農協幹部から「直接支払制度は大変有効。こうした制度をさらに充実、不採算の棚田の傾斜地でお米を作っても採算が取れる助成策を充実させていただきたい」という要請が出たほどだ。
しかし西川氏の「土地改良復活宣言」が出たのはこの直後だった。
「『稲作は売上横ばいで経費は3倍。直接所得補償はどうか』という話が出ましたが、所得補償をした時に(土地改良予算削減で)農地の合理化が進まなかったこともあった。何で手厚くやるのかを検討中で、(我々に)預けていただければ、と思っております」
戸別補償充実の要請は一応受けるが、土地改良事業のどちらを優先するのかは自民党が決めるというわけだ。が、西川氏は13日の会見で戸別所得補償を否定した。
しかし従来の農業予算に戻すだけでは安倍政権が言う「強い農業」に転換できるはずもない。自民党は20日に対策を取りまとめて政府に提出する予定だが、兵庫の農家は「中長期的対策立案なき付け焼き刃的対策は無駄。参院選向け選挙対策だ」と批判する。1カ月足らずで農業の成長産業化策を決める安倍政権への農家の不信感や怒りは高まりつつあり、農業者の内閣支持率は36%から18%に半減(『日本農業新聞』の調査)。安保法制反対に加え、場当たり的TPP対策も参院選の争点になりそうだ。
(横田一・ジャーナリスト、11月20日号)