大阪維新の会、W選挙の勝利で「大阪都構想」復活か――最大の敗因は自民党党本部
2015年12月8日11:38AM
大阪維新の会が完勝した。大阪府知事選では現職の松井一郎氏(51歳)、大阪市長選は新人の吉村洋文氏(40歳)が、自民推薦候補に圧勝。住民投票で否決された「大阪都構想」は再び頭をもたげる。
投票が締め切られ、開票も始まらない11月22日午後8時、テレビ局が出口調査などを根拠に一斉に当確を打ち、大阪市のリーガロイヤルホテルに詰めていた候補者ら維新関係者から「よっしゃあーっ」と大歓声が上がった。前夜、南海電鉄の難波駅前で「8年前、ここで初めて街頭演説しました。8年間ありがとうございました」と珍しく深々と頭を下げて「政治家最後の演説」をし、喝采を浴びた橋下徹代表(大阪市長)は勝利会見には姿を見せない。出れば自分にばかりカメラが向く。ここは当選した新人吉村氏の顔を市民にしっかり覚えてもらう魂胆か。松井氏はダブルスコアで自民推薦の栗原貴子候補(53歳)を、吉村氏は約6対4の差で自民推薦の柳本顕氏(41歳)を破った。松井氏は「4年間やってきたことが有権者に伝わった」、吉村氏は「(橋下市長の)改革路線を継承したい」などと喜びを押し殺し、あたり障りのない発言に終始した。
今回、前代未聞だったのは維新の台頭に民主主義の危機を感じた共産党が自民推薦の二人を応援したことだ。だがこれで逆に自民支持者が離れた。柳本選挙対策本部に詰めていた冨山勝成府議は「古くからの支持者から『何で共産党に応援させるんや』と言われ困惑している」と打ち明けていた。一方、維新の選対事務局長だった東徹参院議員は筆者に「自民の動きは目立たない。共産党が怖い」と盛んに漏らした。吹田市で栗原氏の演説に駆け付けた大半は共産党が動員をかけた運動員だった光景も見た。予想外だったのは自民若手エースの大阪市議団幹事長、柳本氏の大敗だ。劣勢が伝えられた中、選挙戦最終日、JR塚本駅で柳本氏の演説を聴いたが立ち止まる人は少なかった。
勝ち馬に乗りたい公明党が自主投票にしたこともあるが最大の敗因は自民党そのもの。毎日放送(MBS)の出口調査ではなんと、自民支持者の半分が松井氏に、3分の1が吉村氏に票を投じたのだ。自民大阪府連が必死に戦う中、党本部では菅義偉官房長官ら官邸サイドは維新ににじり寄っていた。「告示の1カ月前に立候補表明と知事選で栗原氏が出遅れたのも府連が官邸サイドに斟酌しすぎたからです」(ジャーナリスト吉富有治氏)。「自民党本部は栗原、柳本両候補の応援にあえて稲田朋美氏〈政調会長〉のような共産党支持者が毛嫌いするタカ派を送り、共産支持層を離脱させようとした」(冨田宏治関西学院大学教授)。人の好い柳本、栗原両氏ははしごを外されたようなものか。
維新の2勝により、5月の住民投票で頓挫していた都構想が頭をもたげた。松井氏は「都構想の新たな設計図を作りたい」と会見した。6月に廃止されていた大阪府市統合本部は復活する予定で職員らは振り回されている。タレント弁護士から最初の政界入りとなった07年の府知事選出馬での「2万パーセント」発言を引き合いに出すまでもなく、二枚舌を恥と思わない橋下氏の政界復帰云々を詮索すること自体が無意味だ。松井、吉村両氏の会見である記者が橋下氏の去就について「引退撤回の大義名分ができたと思うのですが」と切り出した。選挙の勝利と「政治家はやめます」の前言を翻すことは無関係のはず。8年間、一向に変わらない関西メディアの「橋下ヨイショ」も維新を微笑ませた。
冨田教授は「橋下氏を支持している中心層は20代から40代のホワイトカラーの勝ち組の男たちです。稼ぎまくって納めた高額の税金が生活保護など弱者のために多く使われていることが不快なのです」と分析する。W選挙の同日に柳本氏の地盤の西成区で大阪市議の補欠選挙が行なわれ、不動産で成功した46歳の男性が自民候補を接戦で破り維新が議席を伸ばした。もはや浪速の人情は死に「勝ち組の勝ち組による勝ち組のための政治」が続く気配だ。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、11月27日号)