外務省が集会参加予定の中国人12人にビザ発給せず――細菌戦被害者ら入国拒否
2015年12月21日11:00AM
外務省がおかしい。ますます強権的体質を露骨にしている安倍晋三首相の意に沿うかのように、このところ首をかしげるような対応が目立つ。その一つが、11月後半に開催が予定されていたシンポジウム「戦争法の廃止を求め 侵略と植民地支配の歴史を直視し アジアに平和をつくる集い」に出席を予定していた、中国の発言者らに対するビザ発給の拒否だ。
この集会は、「アジアと日本の連帯実行委員会」が主催し、東京都内で3回開催された。これには太平洋戦争中、工作機械メーカーの不二越(富山市)が「女子勤労挺身隊」として約1600人の朝鮮人を自社の軍需工場で働かせた問題で、賠償を訴えている韓国人女性ら3人が参加し、当時の日本での過酷な生活を証言した。
だが当初、日本軍が中国大陸で展開した細菌戦について報告を予定していた浙江省の被害者遺族二人と、同遺族を支援している弁護士ら12人に対し、外務省はビザ発給を拒否。このため、集会への参加は不可能となった。
韓国から来日する際にビザは不必要で、日本から訪中する場合も同様だが、外務省は中国からの来日者に対してはビザ取得を義務づけている。これまで日本で開催された戦争責任や歴史認識に関する集会に、中国からの来日者が参加・発言する例は珍しくなかった。だが今回のように、ビザ発給が拒否されたケースは初めてという。
中国側の参加予定者がビザ発給を申請した北京と上海の日本領事館は、「本省の指示」として発給を拒否。これについて外務省の外国人課は、「個別のビザ発給に関する判断理由は答えられない」と説明する。だが『東京新聞』11月28日付朝刊によれば、「シンポジウムの趣旨への政治的な判断は一切ない」と回答している。
この問題で12月3日、国会内で、主催側の「アジアと日本の連帯実行委員会」が記者会見を開いた。席上、一瀬敬一郎弁護士がこれまでの外務省の一連の対応を説明。さらに省に対し、「歴史を直視し、安倍首相の戦争に向かう動きにどう対抗するかという集会を妨害した。あってはならない事態だ」と強く批判した。
また、「村山首相談話を継承し発展させる会」の藤田高景理事長は、「外務省が初めて拒否したのは、シンポジウムのタイトルに『戦争法の廃止を求め』という文言が入っていた以外に考えられない」と述べながら、「戦争法は『国策』だから認めないということか。民主主義に反するやり方だ」として、今後訴訟も含めた外務省への抗議を考えていることを明らかにした。
【国際人権基準軽視の日本】
一方、国連は12月に、こうした日本の表現の自由・人権の現状について調査するため、ディビッド・ケイ特別報告者(米国)を派遣し、国内の人権NGOや政府機関からの聞き取りを予定していた。外務省も国連との間で公式訪問受け入れに合意していたが、ケイ特別報告者は来日を予定していた12月1日の2週間前になって突然、ジュネーブの国連人権委員会日本代表部から「政府関係者へのミーティングがアレンジできない」という理由で、キャンセルを通告された。同時に、「来年秋まで受け入れは困難だ」と示唆されたという(小誌11月27日号「金曜アンテナ」参照)。
今回の調査では、特定秘密保護法の運用や、最近相次いでいる政府のメディアへの介入といった問題が対象になるものと予想されていた。日本は「国境なき記者団」が毎年発表する世界の報道の自由度ランキングで見ると、2010年の民主党政権時代は11位だったが、今年は61位まで大きく後退。頻繁に外遊を繰り返し、そのたびに自分を売り込むためか海外援助資金等を気前よくバラまいてきた安倍首相にとって、こうした国内の表現の自由・人権の急速な悪化状況が世界に知られるのを避けようとしているのは自明だろう。
これについてアムネスティ・インターナショナル日本ら人権団は、11月25日に発表した声明で「日本政府の国際人権基準を軽視する姿勢の表れと国際社会から受け止められ」ると指摘している。
(成澤宗男・編集部、12月11日号)