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「司法の限界」に逃げた最高裁判決 選択的夫婦別姓は実現せず、再婚禁止期間も廃止ならず

宮本有紀|2015年12月25日12:00AM

女性のみに6カ月の再婚を禁じる民法733条。婚姻時、夫妻の一方に姓の変更を強制する同750条。これらが婚姻の自由と個人の尊厳、法の下の平等を保障する憲法などに違反すると訴えた2件の訴訟について最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は16日、前者の100日超部分のみ違憲、後者は合憲と判断した。

 

「別姓訴訟」の最高裁判決後の会見で悔しさをにじませながらも、今後の「実現」をあき らめないと手をとりあう原告団ら。

「別姓訴訟」の最高裁判決後の会見で悔しさをにじませながらも、今後の「実現」をあき
らめないと手をとりあう原告団ら。

再婚禁止期間について、確かに100日を超えた部分は「過剰な制約を課す」と認めた。だがこれは、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子、結婚後200日以降に生まれた子は現夫の子とする規定にあわせ「計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって、父性の推定の重複が回避される」と、80日分を不要としただけのこと。妊娠や遺伝子を調査する医学・科学技術が発達したことも認めているのだから、これらの規定の矛盾や現状に合わない部分にもっと踏み込んでもよかった。しかし原告の「100日以内でも違憲」との主張に同意し再婚禁止期間自体を不要としたのは、鬼丸かおる・山浦善樹両裁判官のみだ。

代理人の作花知志弁護士は、「最高裁の判断も医学・科学技術の進歩が理由にあげられているのだから、妊娠していないという医師の診断書をもって再婚の届け出をした女性に対しては100日以内でも受理するような運用をしてほしい。それなら、少なくとも離婚時に妊娠していない女性については再婚禁止期間が廃止されたと同様になる」と期待する。 そのような運用をする予定はあるのかを訊くと、法務省民事局民事第一課では「未定であり検討中」との返答。現時点ではまだ、窓口で受理されない可能性が高い。

5対10で割れた判断

夫婦同姓制度は10人の裁判官が合憲とし、違憲判断は岡部喜代子・櫻井龍子・鬼丸かおる・木内道祥・山浦善樹の5裁判官だった。山浦氏は、少なくとも1996年の法制審議会で選択的夫婦別姓を含む民法改正案が答申されたときには問題が認識されていたとして国会の立法不作為も認めている。だが、多数意見は「男女間の形式的な不平等が存在するわけではない」「(姓を変えた側の被る不利益は)通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る」とした。形式は平等でも結果不平等を招く間接差別にあたる、通称使用は根本的解決にならない、という指摘はほぼ無視された形だ。

「5人も違憲を出してくださいました。あと3人と思いました」と話す加山恵美さん(右から2人目)。原告らは会見で無念を表明しつつ「やってきたことに自信を持っている」「次はメディアと世の中の方々に期待したい」などと口々にコメントした。(撮影/筆者)

「5人も違憲を出してくださいました。あと3人と思いました」と話す加山恵美さん(右から2人目)。原告らは会見で無念を表明しつつ「やってきたことに自信を持っている」「次はメディアと世の中の方々に期待したい」などと口々にコメントした。(撮影/筆者 左下も)

この訴訟が提訴された2011年2月当時、法務省民事局参事官室は「選択的夫婦別姓を含む民法改正案を提出したいと思っている」と言っていた。今はどうか。「基本的に法制審の答申があったものはやりたい。ただ平成22(2010)年にもチャレンジしたが(政府案を)出せなかったわけで、国民的なコンセンサスが得られていないという状況。最終的には判決にもあったように国会の判断」とのこと。行政も国会待ちなのだ。ちなみに10年のチャレンジとは民主党連立政権下で、当時の千葉景子法相が改正案提出を狙ったものの、閣内の亀井静香氏を説得できずに終わった時のことである。

この時「この内閣で改正できないなら100年できない」(小国香織さん)と思った原告らは提訴を決心した。「国会に期待できないから司法に訴えた」と原告が述べているのに「国会で議論されるべき事柄」と投げ返した最高裁。「(別姓の選択肢がないことが不当との)主張について憲法適合性審査の中で裁判所が積極的な評価を与えることには、本質的な難しさがある」と寺田長官は補足する。司法の限界に逃げた形だが、ことは人権問題だ。判断を国会と世論に委ねるなら三権分立の意味はない。
来年2月16日、国連の女性差別撤廃委員会による政府報告の審査が行なわれることが決まった。民法改正問題は進展調査対象で、再婚禁止期間の廃止や選択的夫婦別姓の導入は何度も勧告されているが、「女性の活躍」を謳う政権下でのこの判決。政府はどう説明するのだろうか。

 

(みやもと ゆき・本誌編集部 2015年12月25日号)

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