16年に向け、安倍政権に対抗する市民団体が次々発足――政治の流れを変えられるか
2016年1月12日10:03AM
2015年は、安保関連法の強行成立に見られるような立憲主義を破壊する安倍政権と、それに抗する市民運動の対立軸が鮮やかに浮かび上がった一年だった。これは「新しい政治文化の出現であり、安保関連法に反対するデモが現実政治にインパクトを与えた」と、山口二郎・法政大学教授は後述する記者会見で語った。
実際、政府・与党に対して当初は及び腰だった民主党も最後まで安保関連法案に反対した。また、国会内で主要野党が共闘を維持せざるを得ない状況になっていた。このうねりを発展させて野党共闘を実現し、2016年の参院選で暴走政治に歯止めをかけようという声が、いたるところから沸きあがっている。
ところが、安保関連法成立からほぼ3カ月経過した年末になっても、全国的な野党共闘ができていない。
このような状況のなかで、2016年の方向付けを示すような三つの市民・学者グループが発足し、今後の具体的な道筋が新たに見えてきた。
【3団体、それぞれに特色】
第一に12月14日に記者会見で設立を発表したシンクタンク「一般社団法人ReDEMOS」(リデモス)。安保関連法に反対しているSEALDsの奥田愛基氏が代表理事、中野晃一・上智大学教授と水上貴央弁護士が理事に就任した。
さまざまな分野で政策提言していくが、当面の行動としては、安保法成立で破壊された立憲主義を再興すべく「立憲民主主義促進法案」の提言を16年5月までに提示する予定だ。
第二のグループはその翌日、15日に正式に旗揚げを発表した「リベラル懇話会」。これは安倍政権に危機感を抱く研究者約40人が集まっている。ジェンダーや歴史、経済などさまざまな分野で提言を2月までにまとめ、意見書という形で民主党に提出する。
このグループは、これまで民主党の岡田克也代表ら同党幹部と勉強会を複数回重ねてきた。目的は、第二自民党のような野党ではなく、自民党と明確な対立軸をつくるリベラル政党のありかたを具体的に示すことだ。
そして三つ目が、20日に結成記者会見を開いた「市民連合」(安全保障法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)で、団体加盟や有志加盟を受けていくという。
「リデモス」や「リベラル懇話会」が政策提言を行なうのに対し、この「市民連合」は、16年夏の参院選をはっきりと意識している。呼びかけ人のひとりである山口二郎氏(立憲デモクラシーの会有志)は、「市民が政党を揺り動かす」ことを強調した。
佐藤学・学習院大学教授(安全保障関連法に反対する学者の会有志)が、参院選への関わり方を説明した。それによると、32の一人区すべてで野党候補の一本化を求め、市民連合が応援する条件として(1)安全保障関連法の廃止、(2)立憲主義の回復(集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回を含む)、(3)個人の尊厳を擁護する政治の実現、の3点をあげる。無所属候補に関しては市民連合と協定を結び、当選後に勝手に特定の政党に入らないことを約束するという。
「リデモス」と「市民連合」の両方にかかわる中野晃一氏(立憲デモクラシーの会)は、10月2日に東京で行なわれた集会で、ニューヨークのウォール街で展開されたオキュパイ運動参加者が、米国民主党内のリベラル候補であるサンダース氏の選挙運動を担っていることを紹介した。日本においては、安保法制反対の市民運動が選挙運動へシフトする役割が「市民連合」かもしれない。
年末に姿を現した3団体は、それぞれ特色がある。共通するのは、政府与党を追い込む前に、「共闘」から脱落しそうになる野党を追い込む側面だ。あるいは自民党と対決しない野党の逃げ道をふさぐ役割がある。
市民が外側から政党をどこまで揺り動かすことができるか。これが2016年の課題のひとつだろう。
(林克明・ジャーナリスト、12月25日号)