東京・千代田区の報酬審が無知丸出しの答申案――政活費を議員報酬に付け替え
2016年1月13日12:39PM
政務活動費は政治活動や私的な用途には使えない。報告義務もある。使いにくいから議員報酬に付け替えて自由に使える金にすべきである――。地方自治法無視のほとんど“泥棒”と言ってもいいような暴論が東京都千代田区(石川雅己区長)でなされている。
区長の諮問機関である特別職報酬等審議会(会長・武藤博己法政大教授)は12月10日、月額上限15万円の政務活動費を同5万円にする一方で、引き下げ分に相当する月額10万円を議員報酬に上乗せすべきだという答申案をまとめた。委員のひとりから白紙撤回と審議継続を求める意見も出たが拒否された。
かりにこの答申案に沿って条例変更がなされれば、議員報酬と期末手当を合計した収入額は一人当り年間約100万円増えることになる。議長で1711万円、副議長1520万円、委員長1300万円、副委員長1250万円、役職のない議員で1200万円。不景気と消費増税によって区民が苦労しているなかで、異様な上げ方だ。
答申案や武藤会長の説明によれば、政務活動費を議員報酬に「付け替えた」理由は次のとおり。
▽トータルの報酬額をわかりやすくする、▽政務活動費には「不透明」な部分がある、▽政務活動費は使いづらい、▽議員は行政を監視するのが仕事。報酬はもっと高くすべきである――。
一見もっともらしいが、説得力に乏しい。
「トータルの報酬額」をわかりやすくしたいのであれば、資産公開すれば済む話だ。議員報酬と期末手当、政務活動費はそれぞれ地方自治法で定義づけ、条例で額や支給方法を定めている。報酬にしてしまえば見えにくくなるだけだ。
政務活動費が「不透明」というのも意味不明だ。もともと不透明な形で支給されていた議員への補助金があり、「第二の報酬」だとの批判を浴びて2000年に政務調査費(のちの政務活動費)が立法化した。使途は政務調査のためだけ、実費支給、余ったら返還する、使途報告を義務づけ、透明化に努めるというのが立法趣旨である。
報酬と区別して「経費」だと明確化したものを「わかりにくいから報酬に組み込んでしまえ」というのだから、本末転倒もはなはだしい。要するに、政務活動費を「第一の報酬」にしてしまおうという目標をまず定め、そこにむかっていい加減な理屈を並べているだけにみえる。
【審査手続きも疑問だらけ】
議論も粗雑なら手続きも疑問だらけだ。今回の審議がはじまった2013年の時点で、政務活動費の真偽をする権限が報酬審にはなかった。政務活動費については、議長の諮問機関が別にあり、そちらで審議する仕組みになっていたのだ。ところが、議長の諮問機関を休眠状態においたまま、今年4月に条例改正がなされ、それを機に、報酬審でも政務活動費を扱っていいのだという話になっていく。新条例では、「議員報酬」に加えて「期末手当等」の審議が可能となった。この「等」のなかに政務活動費も含まれるという解釈だ。
しかし、この解釈が本当に正しいのかどうかは議事録をみてもはっきりせず、疑わしい。
さらに、区長から「政務活動費」について検討せよとの諮問がなされたのかどうかについても疑問が残る。これも審議録上は確認できないのだ。
報酬審を主導したのは武藤会長と自民党前区議の中村恒雄委員だった。武藤氏は地方制度調査会の委員も務める行政法のプロだ。だが政務活動費についてどれほど理解しているのかあやしいと思った筆者は、審議終了後の記者会見で尋ねた。
「政務活動費は政治活動には使えるんでしょうか」
武藤氏は答えた。
「……使えるんじゃないですか。え、使えないんですか?」
むろん政治活動には使えない。
知性の劣化と法の軽視ぶりにはあきれるばかりだ。「議会の総スカンに手を焼いた石川区長が自民系議員に“餌”を与えた、というところだろう」と事情通はみる。
(三宅勝久・ジャーナリスト、12月25日号)