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売れゆき優先の大手書店は平積みに――波紋呼ぶヘイト・スピーチ本

2016年1月18日6:42PM

BLARと「のりこえねっと」による共同記者会見。(12月21日、参議院議員会館。撮影/松岡瑛理)

BLARと「のりこえねっと」による共同記者会見。(12月21日、参議院議員会館。撮影/松岡瑛理)

特定の出自を持つ人々を標的としたヘイト・スピーチ(差別煽動表現)を含んだ本の出版は許されるのか。今、論議が国内で巻き上がっている。

端緒となったのは、漫画家・はすみとしこ氏のイラスト集出版だ。はすみ氏は昨年9月、難民の少女に「何の苦労もなく生きたいように生きていきたい/他人の金で。/そうだ難民しよう!」などのコメントを添えたイラストをネット上で発表。人種差別を助長する内容だとして大きな非難が巻き起こった。しかし「炎上」状況を逆手に取るかのように、12月には青林堂より問題の画を含んだ書籍が刊行された。

本書の出版に対し12月21日、「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」(BLAR)と「のりこえねっと」による共同記者会見が参議院議員会館で行なわれた。BLARは近隣諸国への憎悪感情を煽る「嫌韓・嫌中本」の流通に対する危機感から2014年に発足した出版関係者の有志団体。同書の出版は公正な言論や表現の自由を損なうもので、書店は「偏見と憎悪の煽動に加担すべきでない」とネット上で署名活動を呼びかけ、12月末時点で約8200筆が集まった。

同会の岩下結氏は、はすみ氏の新刊にはイスラム教徒を揶揄する画像なども含まれ、書の半分以上は在日コリアンが標的になっていると紹介。「全体として特定の民族への偏見を助長する内容に溢れている。これが人種差別ではなかったら何なのか」と問題を提起。

「『表現の自由』は最大限尊重すべきだが、野放しでいいというわけではない。編集者や出版社は、本の出版をする時に一定の表現コードにもとづいて選択を行なっている。その中で排外的なイラストだけが正当化される意味を考えてほしい」と訴えた。

今回、問題となった難民画像を、一部新聞やネットメディアが「風刺表現」と報じたことも物議を醸している。「差別」と「風刺」表現とはどう異なるのか。会見での質問に対し「のりこえねっと」共同代表・辛淑玉氏は「風刺は本来、自分より力の強い権力者の暴走を止めるためのもの。彼女の作品は徹底した妄想であり、社会がきっちり落とし前をつけなければならない『犯罪』です」と語った。

【「店名を出さないで」】

書店の対応はどうか。今回、同書を入荷しなかったのが大阪・梅田の清風堂書店だ。店長の面屋洋氏(40歳)は「差別に加担したくなかった」と理由を明快に語った。今後、類書が出てきた際の判断基準については「在日コリアン、LGBTなど、被差別当事者の声はできるだけ考慮に入れたい。ツイッターを始めとして、さまざまな情報源から判断している」と語る。

一方、筆者が都内十数店を歩いたところ、残念ながら本書を平積みする店舗の方が多かった。大手のMARUZEN&ジュンク堂も特別な対処は取っていない。広報担当者は、論議については把握しつつも「手に取った人に危険が及ぶ内容、ないし法的に処置が必要な場合は速やかに対応します。そうでなければお客様側に購買の選択肢を残したいので、店側での判断は極力控える」と話す。では、他国に出自を持つ人々が本書について物理的・精神的に「危険が及ぶ」と訴えた場合はどうなのか。重ねて訊ねると「場合によって対応を考えるが、今のところそのような問い合わせはない」。

10月には、東京・渋谷のジュンク堂書店で「自由と民主主義」をテーマとしたブックフェアの選書内容が「偏っている」と批判を受け中断する事件があったばかり。同店店長は「誌面に店名がどう出されるかわからない」とし、電話での取材には応じなかった。

他にも、「上が神経を尖らせる。店名を出さないで」と念押ししてくる書店もあった。

書店は、自社の評判と商品の売れ行きだけを気にする状況でよいのか。第一に責任を負うべきは、作者や出版社だ。しかし、報道や書店も含めて偏見への「加担」範囲は、いま問い直されている。

(松岡瑛理・ライター、1月8日号)

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