検察推薦の学者委託で検証――袴田事件の実験強行
2016年1月27日12:48PM
袴田事件(1966年)で死刑判決が確定したものの、静岡地裁の再審開始決定を受けて釈放された袴田巖さん(79歳)の再審請求審で、東京高裁(大島隆明裁判長)は1月7日、DNA鑑定手法の検証実験を鑑定人の学者に委託した。袴田さんの弁護団は実施に反対して鑑定人の推薦を拒んでおり、検察推薦だけの異例の実験となる。
鑑定人に選任されたのは、大阪医科大学の鈴木廣一教授(法医学)。この日は非公開の鑑定人尋問もあったが、弁護団が何点か確認の質問をしただけで終了したという。弁護団によると、具体的な実験のやり方を高裁と鈴木氏で今後詰めるため、結果が出る時期は未定だ。
検証実験は「選択的抽出方法」の有効性を確認するのが目的とされる。皮脂や汗、唾液などが混じった血痕から血液のDNAだけを取り出す手法で、これを用いた鑑定結果が静岡地裁の再審開始決定の拠り所になった。決定を不服として即時抗告した検察が実施を求めていた。
高裁の実施決定書によると、検証実験には、(1)新鮮な血液と別人の新しい唾液を混ぜた試料、(2)10年以上前の血液の付着片、(3)(2)に別人の新しい唾液を混ぜた試料、の3種類を使い、選択的抽出方法が「血液のDNA型を判定するのに有用か」を調べる。弁護団が特に問題視するのは(3)の試料で、DNAは時間が経つと減ったり壊れたりすることを挙げて「新しい唾液のDNAを検出させる誘導的実験だ」と反発してきた。
弁護団は昨年12月25日、高裁に異議を申し立て、実施決定の取り消しを求めたが、高裁は即日、理由も記さずに棄却した。
鑑定人尋問後に記者会見した西嶋勝彦・弁護団長は「有害・無益な実験という評価は変わらないが、鑑定人と裁判所のやり取りを見極めるために今日は参加した。今後は実験結果に対して意見を述べていくことになる」と語った。
(小石勝朗・ジャーナリスト、1月15日号)