『アンブロークン』上映を拒む“企業化”した社会
2016年2月12日10:13AM
2月6日から全国公開されるアンジェリーナ・ジョリー監督の『不屈の男 アンブロークン』を巡って1月21日、東京の日本大学芸術学部で、作品上映後に映画監督の森達也氏とジャーナリストで早稲田大学教授の野中章弘氏が対談した。
『アンブロークン』は、ベルリン五輪で好成績をあげ1940年開催予定だった東京大会で金メダルを狙っていた実在の米国人陸上選手の不撓不屈の人生がテーマ。第二次大戦中に日本軍に拘束され東京の大森捕虜収容所に収監され、異様な虐待を受け続けた末、日本の敗戦により生還。98年の長野冬季五輪の聖火ランナーとして日本の土を踏んだ。
米国で公開されると、虐待シーンが多いためか日本ではネット右翼を中心に「反日映画」だと非難の声が高まり、二の足を踏んだ東宝東和に代わりビターズ・エンドが配給に踏み切った経緯がある。森達也氏は「リスクをとらず効率化だけを求める企業化した風潮が背景にある。表現活動やジャーナリズムは危ないこともする」と上映延期をめぐる社会的背景として“企業化”があると指摘した。
野中氏は、NHKが「従軍慰安婦」のドキュメンタリーをつくりたがらない例と比較して(具体的で差し迫った圧力もないのに)忖度して自主規制すると、表現活動にかかわる人も具体的でない恐怖をもつ、と述べたのは印象的だった。
(林克明・ジャーナリスト、1月29日号)