阪神・淡路大震災被災住民の「追い出し」を強行する神戸市――市営住宅造らず新庁舎建設
2016年2月22日10:30AM
阪神・淡路大震災で不足した住居を、民間や都市再生機構(UR)から市や県が借り上げて、住民に提供していた「借り上げ復興住宅問題」。昨年9月に最初の「20年の期限」を迎えた兵庫県西宮市のシティハイツ西宮北口に続いて、同県神戸市内では、JR兵庫駅のすぐ南に立つキャナルタウンウェスト1~3号棟が同市内で最も早い1月30日に期限を迎えた。退去を拒否している3世帯の住民に対し、神戸市はすでに退去通知書を出し、法廷闘争も辞さない構えだ。
キャナルタウン2号棟に住む丹戸郁江さん(72歳)は、乳がんで抗がん剤治療を続け、すぐ近くに住む妹夫妻の助けを頼って暮らしている。「がんは少し良くなったけど頸椎の損傷で歩行困難になると言われている。妹と離れたら暮らしていけない。2年半前、私がインフルエンザで倒れている最中にインターホン越しに一方的に説明された」と話す。
化粧品の販売事業をしていた丹戸さんは自宅が全壊し、避難生活ののち、1996年3月にキャナルタウンに入居した。丹戸さんの持つ市との契約書には20年で退去しなくてはならないということは一切記載されていない。あくまで、市とURの契約が20年になっているだけだった。「年金生活ですが、いまも事業の負債が残っており、生活は苦しい」と訴える。
市は要介護3以上、85歳以上には継続入居を認め、該当しない入居者には他の市営住宅をあっせん、転居を求めてきた。一方、UR側は「市の方針通りにしているだけ」とするだけでUR側から退去を求めているわけではないという。
神戸市は2月2日に退去通告書を退去に応じない住民の弁護団に送った。「退去に応じなければ1月31日以降、市がURに払う家賃に相当する損害賠償を求める」とし訴訟も辞さない内容だ。
市は「応じて転居した他の入居者との不平等」を論拠にする。しかし、弁護団の吉田維一弁護士は、「市は脅迫的なやりかたで追い出すなど不公平なことを十分にやってきた。個人個人で事情は異なる。応じた人を引き合いに出して不平等論を持ち出すことは許されない」と指摘し「入居を続けられた時の市の経済的被害の説明も破綻している。今後も期限を迎えることになっている住宅を多く控え、市はここで譲歩するわけにはいかないと強硬になっている」と警戒する。
【賑わい名目も庁舎内に店】
その一方で神戸市は昨年12月、長田区の再開発地区に新庁舎(県市の合同庁舎)を建設することを明らかにした。だが具体的な内容やその予算すら明確にしない。
情報公開請求をしている兵庫県震災復興研究センターの出口俊一事務局長は「市は再開発の名目で長田区に高層ビルを乱立させ、現在、空き床だらけになっている。新庁舎を建てなくとも十分使えるはず。職員だけが来ればいい。都市部局に予算を聞いても数十億くらいとかいうだけ」と怒る。
建設の大義名分は「1000人ほどの職員が来る。長田区にかつての賑わいを取り戻し、商店などを活性化したい」というものだ。そうであれば庁舎内に食堂や喫茶店、売店などを造ることはおかしいはずだ。出口事務局長がそれを問うても市は言葉を濁すという。三宮の本庁舎に入っているレストランなどと、すでに契約ができている可能性もある。再開発地区の商店街で中華料理店『雲来軒』を営む染谷繁さんは「せっかく人が増えても庁舎内に食堂や喫茶店を造られては意味がない」と話す。
20年前に神戸市が民間からの借り上げをし、その後も借り上げ入居者のための市営住宅を造らなかったのは「新たに建設すれば金がかかる。借り上げの方が安い」が理由だった。市営住宅は造らず、自分たちのための豪華庁舎などを造り続ける神戸市は近く市主導で三宮の再開発にも着手する。
災害を奇貨として再開発名目に不必要に豪華な箱モノ造りに邁進、ゼネコンに奉仕し続ける一方で住民を追い出しにかかる。いったい行政は誰を向いているのか。復興災害は拡大し続けている。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2月12日号)