本誌が報道した呉市の育鵬社教科書の不正採択問題――市が1054カ所の誤り確認
2016年3月28日10:07AM
本誌2月12日号で、取り上げた広島県呉市の育鵬社教科書採択の問題が大きく動き出した。
既報の内容は(1)公民的分野における育鵬社を高評価するための数値の水増し・偽装、(2)歴史的分野における歴史上の人物調査のデタラメ、(3)採択システムで選定委員である指導主事が調査研究委員会にも介入していて、公平な採択が保証されていないなどであった。
事態の進展は、2月10日、市民グループが市の教育委員会に質問状を提出したことに始まる。質問状を受け、市教委は否定することができない事実を確認、本誌にこの問題が掲載されたこともあって、2月17日に教科書選定資料の誤りがあったことを、市会議員やマスコミに発表した。
翌日(2月18日付)の『中国新聞』の見出しは「呉市の16年度中学校歴史教科書/選定の評価表に誤記/市教委 採択の影響調査」と(2)だけが問題となっている。続く、2月22日付『中国新聞』記事の見出しは「呉市の教科書選定の評価表/誤記発見者が報告/市民ら学習会」、本文記事で「選定委員会の一員である市教委指導主事が……調査研究委員会でも指導や助言する……選定の公正さが担保されてない」と、ようやく(3)の問題が書かれたが、(1)の問題には相変わらず触れていない。
一方、市民運動側は2月21日学習会を開催し、「教科書ネット・呉」を立ち上げた。2月23日市民グループは市教委に公開質問状を提出。(1)~(3)の問題についての市教委の見解や対応をたずねて、「綿密な調査研究」が行なわれず、不正も行なわれたとして、採択の無効を主張。『朝日新聞』(2月24日付)はこれを報じた記事で「呉・教科書選定資料誤り/採択無効訴え質問状」の見出しで、公民の教科書選定についても「恣意的で不公正」との批判記事を載せた。市教委のホームページの表記は2月17日には「社会科(歴史的分野)の総合所見の誤り」としていたものを24日、「社会科(歴史的分野、公民的分野)」の問題と変更した。
【呉市教育長は辞任】
広島県内はもとより、県外からも注視される中、3月3日、臨時教育委員会会議が開催された。この会議で呉市教委は、調査した総合所見の誤りは1054カ所と発表。前代未聞の数字である。この時の新聞記事の見出しは「採択結果変更せず」(『中国新聞』)、「教科書採択変えず/呉市教委/資料誤り1054カ所」(『朝日新聞』)であった。
公民教科書採択の問題は「カウント間違い」という程度のものではない。育鵬社が高評価となるように、意図的に同社のみ水増し操作を行ない偽装したのだから、悪質な犯罪的行為である。にもかかわらず3月3日の臨時会議では、育鵬社の水増しした「コラム」を31削除して6とし、他の教科書ではコラムとして数えていなかったものを若干取り入れる(東京書籍は50のうち4)ことで偽装をごまかし、隠蔽しようとした。
数字の改訂の結果、東京書籍の評価得点はプラス4の32、育鵬社はマイナス25の24となった。ところがそれでもなお市教委は数字だけでなく、総合的に判断したとして育鵬社が◎(特に優れている)、東京書籍は○(優れている)の評価を変えない。つまりだれもが納得のいく客観的評価でなく、恣意的な評価をしたのである。
3月9日、衆議院文部科学委員会で呉市の教科書問題が取り上げられ、馳浩文部科学大臣は「呉市教委の歴史・公民教科書研究資料に多数の誤りがあったということに関しては、率直に申し上げて望ましいものではない……保護者や地域住民等に教科書採択に対する不信感を抱かせてしまった……採択権者である呉市教委においては説明責任を果たしていただく……」と答弁している。
この前日、呉市教育長は3月限りで辞任することが発表された。
呉市の教科書問題はこれで終わりになったのではない。市民は教育委員全員が不正採択を行なったことを認めるまでたたかう。
(内海隆男、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま、3月18日号)