袴田事件、新たな証拠捏造疑惑――「脛の傷は逮捕後に」
2016年6月17日12:24PM
袴田事件(1966年6月)の再審を求めている元プロボクサー袴田巖さん(80歳)が、逮捕後に「犯行時に被害者に蹴られてできた」と供述した右足の脛の傷が、逮捕当日の身体検査調書などに記載されていないことが分かった。弁護団は証拠捏造の疑いを指摘。「死刑判決の事実認定に重大な誤りがあった」として、改めて再審開始を求める意見書を5月16日に東京高裁へ提出した。
医師の鑑定書によると、右足脛の傷は4カ所で、長さ1・5~3・5センチ。袴田さんがいったん犯行を「自白」した二日後の66年9月8日に確認された。その約1年後に発見された「5点の衣類」のズボンには右足脛の位置に「2・5×4センチの、裏地にまで達する損傷」があり、傷は衣類が袴田さんの犯行着衣だと認定する重要な根拠になった。
しかし、今年3月に検察が開示した逮捕当日(8月18日)の静岡県警の身体検査調書には、7カ所の傷の記録があったものの脛の傷は書かれていなかった。弁護団が調べたところ、同日の医師による鑑定書や、留置場に収容した際の留置人名簿にも、記録はなかった。
弁護団は「傷は逮捕後にできた」と結論づけ、「ズボンの損傷が脛の傷に合わせて作られた可能性をうかがわせる」と主張。5点の衣類が「捏造された疑い」に触れた2年前の静岡地裁の再審開始決定をもとに「捏造の可能性が一層高まった」と述べている。
逮捕当日の身体検査に9月と同じ警察官が当たっていたことも判明したため「警察は脛の傷が逮捕後にできたと知っていた」と強調し、傷が「警察官から暴行を受けて生じた可能性」にも言及した。
弁護団は逮捕当日の右足脛の写真を開示するよう求めたが、検察は「見当たらない」と回答。西嶋勝彦・弁護団長は「逮捕時に傷があった証拠は示されず、この問題は決着がついた」と自信を見せた。
(小石勝朗・ジャーナリスト、6月3日号)