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「イラク戦争公聴会」で柳澤協二氏、安保法危機感から――「生きているうちに」と証言

2016年6月21日11:58AM

「第1回イラク戦争公聴会」で証言する柳澤協二氏。東京・千代田区。(撮影/林克明)

「第1回イラク戦争公聴会」で証言する柳澤協二氏。東京・千代田区。(撮影/林克明)

5月31日、衆院第一議員会館国際会議室で「第1回イラク戦争公聴会」が開催された。検証委員会は、専門家、市民、国会議員有志で構成される。

冒頭、総合司会を務めた検証委員でジャーナリストの志葉玲氏は、「昨年来の安保法制の審議は、戦争の実態からずれている。それは、イラク戦争そのものと日本が関わったことをきちんと検証していないからだ」と、民間主導の検証委員会設置の意義を訴えた。

海外では、詳細な検証を行なっている例もある。自衛隊が派遣されたサマーワ近辺で軍に治安維持活動をさせたオランダ政府は2009年3月、元最高裁長官を中心とした検証委員会を設立し、10年1月にはイラク戦争を支持したオランダ政府の判断は正当化できないと結論づけた。

英国は下院外交委員会に二つの独立調査委員会で検証したものの、野党やマスコミから追及が甘いと厳しく批判され、首相と議会の承認のもとで09年7月に「イラク戦争検証委員会」を設置した。ブレア元首相ら政権中枢にいた人物が公開の公聴会で証言し、その様子はネットでも見られる。今年7月に膨大な報告書を出す予定だ。

翻って日本は、外務省が12年に検証結果を4枚の報告書にまとめただけ。「政府がきちんと検証する様子は今のところないから、自分たちでできることから着手したい」(前述・志葉氏)ということだ。

【「だからこそ検証が必要」】

初回の証言者は、小泉純一郎政権で内閣官房副長官補でイラク開戦時は防衛研究所長だった柳澤協二氏。政治と軍事をつなげる役割を果たしてきた人間として「生きているうちにしゃべりたい」と、ざっくばらんな態度で語り、検証委員の質問にも真摯に答えた。

「いまこそ検証する意義がある。成立した安保法によって自衛隊員が戦闘の当事者になる可能性があるからです。アメリカ兵士のPTSD(心的外傷後ストレス障がい)が問題となっており、自衛隊員が帰国後に精神的に崩壊しないとも限らない。軍の崩壊は日本社会の崩壊につながる」と強い危機感を持ちながら柳澤氏は続けた。

イラク開戦の最大の理由であった、イラクが大量破壊兵器を保持していたからという点はどうか。当のアメリカも、そのような証拠はなかったとすでに認めている。では、嘘をついてアメリカやイギリスはイラクを攻撃したのか。

「『嘘ついたのではなく、みんなが間違えた』という趣旨のことをブッシュ元大統領は語っている。(多くの情報が結果的に誤っていたのは事実、とブッシュ氏は05年12月に明言している)。だからこそ検証が必要なのです。

情報機関と政策決定者の関係は重要だ。一方、軍や政治は戦争が避けられないなら準備をしなければならない。すると『大量破壊兵器があるとはいえない』から何度かやりとりして『ないともいえない』となり、それを繰り返していくうちに、『ある』ことが前提でことが進められてしまうのです。警告を発するのも情報機関の役割だが、いつしか政策決定者を喜ばす情報=大量破壊兵器持っている、と伝えてしまう。こういうことが重なり、サダム・フセインが大量破壊兵器を持っていると私も信じていました」

国際法違反との指摘には、「当時から国際法違反だと認識していた。しかし、アメリカを誰も止められない。(金だけ出したと批判された)湾岸戦争時のトラウマからも抜けだせなかった。アメリカのおかしさを口にしたら、仕事はできない状況だった」と率直に述べた。

さらに、イラク戦争直前に全世界で1000万人の反戦デモが起きたときも「そんなの関係ねー、国会追及の答弁づくりのほうが大事、という雰囲気だった」と官僚たちの本音を語ったことも印象的だった。

公聴会は1カ月に1度のペースで開き、1~2年で報告書をまとめる予定だ。

(林克明・ジャーナリスト、6月10日号)

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