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安倍首相、公示日の演説は“争点隠し選挙”のために――被災地熊本と福島を政治利用
2016年7月11日10:13AM
安倍晋三首相は参院選公示日の6月22日午前、4月の地震で被災した熊本市の熊本城前で第一声をあげた。集まった支援者150人を前に、自らの憲法改正への姿勢や緊急事態条項創設にもまったく触れないまま、安全保障政策における民進党と共産党との野党共闘をやり玉に挙げる“争点隠し演説”をしたのだ。
「共産党は地震の際にあれほど頑張った自衛隊を『憲法違反だ』と昨日も明確に言った。『(綱領で)将来、解散しろ』と言っている。こんな無責任な人たちに私たちは子供たちの未来を託すことはできない」
今回の野党共闘(統一候補擁立)は安保関連法制廃止などの政策協定に基づくもので、共産党の綱領とは無関係。ネガティブキャンペーンが“得意”の安倍首相は、現職の松村祥史候補の実績や熊本への支援にも触れつつアべノミクスの自画自賛をここでも繰り返した。
「野党はアベノミクスは失敗と批判ばかり」と反論した上で、安倍政権以降の有効求人倍率や最低賃金引き上げなど、自らに都合のいい数字を列挙。「暗く低迷した民主党政権時代に逆戻りするのか、アベノミクスを前に進めるのかを問う選挙」と位置づけたのだ。
しかし安倍首相は第一声で、熊本地震直後に菅義偉官房長官が議論の必要性を口にした緊急事態条項について語らなかった。復興に尽力する熊本市の男性職員(40歳台)は、こう話す。「大規模災害対応のために緊急事態条項が必要というのは、議論のすり替え。最初、菅さんの発言を聞いた時には驚くより、『こんなに大変なことになっているのに被災を隠れ蓑にするやり方があるのか』と腹が立った。しかも選挙になると、緊急事態条項や改憲を争点にせず、アベノミクスを詳しく訴える。経済政策で選挙に勝利、民意を問うてない改憲を進めるのは国民をばかにしている。恐ろしくも感じる」。
【森雅子議員復興予算人質に】
熊本での演説を終えた安倍首相は午後、福島に駆けつけ、郡山市と須賀川市で演説。しかし首相到着までの前座を務めた地元の森雅子参院議員から暴言が飛び出した。自民党現職の岩城光英大臣が当選しないと、復興予算減額になると被災者を“脅した”のだ。
「復興を前に進めるため、私たちの選択肢は岩城光英法務大臣以外は考えられない。復興最盛期に入り、まだまだ財源が必要な時期に、福島県から与党の国会議員を一人でも減らすことは考えられない。復興に水を差す、金を捨てる、ブレーキをかけることになる」
「与党議員落選=復興予算を捨てる(放棄)」と強調、復興予算を人質にした投票要請といえるが、岩城氏も「復興の加速化を止めません」と呼応した。
会場の雰囲気が高まったところで安倍首相が到着。「3年半前に政権奪還をして以降、復興が加速化。高台移転の8割の工事が完了し、常磐自動車道は全線開通した」と成果を訴えたが、福島県民の思いを無視して原発再稼働に邁進していることや緊急事態条項やTPPへの説明は一言もなかった。エネルギー政策については「2020年東京五輪は、福島で作った水素エネルギーを使いたい」と話しただけ。須賀川市での演説を聴いた地元住民(50歳台)は、呆れた。
「安倍首相は演説で『お母さんから人の悪口を言ってはいけないと言われた』と言いながら針小棒大な野党の悪口ばかり。熊本から福島に来たと自慢したが、被災地をネタにしただけ。外国人観光客が増えたと自画自賛したが、風評被害に悩む福島は蚊帳の外だ。福島原発近くを通り、いまだに放射能線量が高い常磐自動車全線開通を自慢するのも困ったものだ」
過去3回の国政選挙で繰り返した得意の“争点隠し選挙”を、今回の参院選でも始めた安倍首相。第一声を熊本と福島で上げることで被災者に寄り添う印象を与える一方、被災地が関係する緊急事態条項や原発問題など肝心の争点(重要政策課題)は語らない。被災地を自らの野望実現、改憲による緊急事態条項創設に政治利用している姿勢は一貫しているのだ。
(横田一と参院選ジャーナリスト集団、7月1日号)
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