“小池劇場”で与野党からも票集め都知事選圧勝だが――都政の課題は待ったなし
2016年8月22日11:03AM
7月31日20時、JR池袋駅前の小池百合子候補の事務所で支持者から歓声が上がった。投開票終了と同時に当確が出たためだ。すぐに小池氏が現れて万歳をした後、「これまでにない、見たこともない都政を進める」と挨拶をした。
東京都知事選(31日投開票)で元防衛大臣の小池氏(無所属)が約291万票を得票、自公などが推薦する元総務大臣の増田寛也氏(約179万票)と民進・共産・社民・生活などが推薦するジャーナリストの鳥越俊太郎氏(約135万票)らを破った。勝因は、自民党都連のドンで除名文書も出した内田茂幹事長を悪代官にする選挙戦を展開、「都政を牛耳る自民党都連が担ぐ増田氏対闇に斬り込む小池氏」という勧善懲悪の選挙戦に仕立てたことだ。
街宣(〝小池劇場〟)では、除名覚悟で駆け付けた若狭勝衆院議員(元東京地検特捜部副部長)が「私は誰から何と言われようが負けません」「初の女性都知事誕生を」とアピールすると、超党派で応援する都議有志の音喜多駿都議(北区選出)が「内田氏は猪瀬直樹知事と舛添要一知事の去就を左右するほどのドン」と名指しした上で「若狭先生が加わった利権追及チームを立ち上げ、闇に斬り込む」と呼びかけた。都政を刷新する存在として小池氏への期待が高まったのだ。
一方、既成政党は与野党とも精細を欠いた。30日、増田氏の立川駅での街宣には自公の幹部が次々と駆け付けた。菅義偉官房長官や石原伸晃大臣(都連会長)や茂木敏充選対委員長、公明党選対責任者の斉藤鉄夫衆院議員が支持を訴えたが、大差をつけられた。得意の組織選挙が通用しなかったのだ。
野党統一候補擁立のドタバタ劇も見るに堪えなかった。8日に出馬表明をした石田純一氏が3日後に断念、今度は元経産官僚の古賀茂明氏が最有力となり、松原仁・都連会長(衆院議員)が11日に出馬要請をして握手をする場面が報道された。しかし深夜にかけて民進党執行部は強引に鳥越氏に乗換えたのだ。これでは民進党が一丸になって動くはずがない。
これに週刊誌報道も加わって、序盤戦で1位だった鳥越氏は2位から3位へと失速。民進党支持者の約4割、共産党支持者の約2割が小池氏に流れた。
【試金石の豊洲移転問題】
劇場型選挙で勝利した小池氏だが、改革派のイメージを現実化する課題を負った。当確後に小池氏は、膨らんだ五輪関係予算などを検証する「第三者委員会(利権追及チーム)」を設置すると述べた。若狭氏も囲み取材で「早急に設置すべき」「検証対象には1・5倍に工事費が膨らんだ豊洲新市場建設も含まれる」と意気込んだ。
11月7日に予定されている「豊洲移転問題」も待ったなしだ。しかも小池氏は22日の築地街宣で次のように訴えていた。「土壌汚染の安全性の確認、豊洲のさまざまな使い勝手の問題などについて、移転をする人の納得をいただく。そのためには、一歩立ち止まって考えるべきだと思っております」「築地市場の豊洲への移転問題、都民の都民による都民のための都政ではなくなっている最たる例ではないかと思っています」。
小池氏は演説後、築地関係者の「躍進する市場の会」会長の関戸富夫氏から開場予定日の見直しなどを求めていた要望書も受け取ってもいた。関戸氏が「11月7日の延期はもちろん、築地での営業継続が可能な抜本的見直しに踏み込む決意表明と理解しました」と期待したのはこのためだ。
また豊洲移転問題に詳しい一級建築士の水野和子氏は、こう話す。
「すでに土壌汚染の情報は公開され、施設内の発がん性物質濃度が基準値以上になる恐れが明らかになっています。小池氏は『情報公開が第一』と言っていますが、公開データを直視すれば、豊洲移転中断を検討せざるを得なくなる。ここまで踏み込むのかが試金石です」
しかし都は、選挙中に築地市場の解体工事を発注するなど移転強行の姿勢。小池新知事とのバトルが就任直後から始まることになる。
(横田一・ジャーナリスト、8月5日号)