10月の東京・福岡両補選、分裂選挙含みで波乱必至――無理筋を推す麻生氏の狙い
2016年9月12日10:44AM
今年10月に実施される衆議院東京10区と福岡6区の両補選が、自民党の“火薬庫”となっている。両選挙区ともに分裂選挙となる可能性が出ているのだ。
東京10区は都知事選に立候補した小池百合子氏の後任を決める選挙で、若狭勝衆議院議員(比例東京)の名があがっている。若狭氏は都知事選で党の方針に反し、公然と小池氏を応援した。党内に根深い遺恨があるなか、自民党が若狭氏以外の候補者を立てれば分裂選挙の再来となる。
自民党にとって、もっと頭が痛いのが福岡6区だ。6月に他界した鳩山邦夫前衆議院議員の弔い合戦となるが、地元の麻生太郎副総理・財務相が、8月に就任した二階俊博幹事長をつきあげているのだ。
麻生氏が推すのは自民党福岡県連会長(蔵内勇夫県会議員)の息子、蔵内謙(参院議員秘書)氏。県連はすでに党本部に公認を申請している。
一方、鳩山氏の息子、二郎氏を推すのは二階派(志帥会)所属の武田良太衆議院議員・元防衛政務官。2011年の福岡県連会長選では元首相の麻生氏と激突し、しかも制した。
調整役を買われて幹事長に就任した二階氏は目の前の難題に頭を抱えている。麻生氏は、そんな二階氏に「まさか県連の方針を覆すことはないでしょうね」とプレッシャーをかけている。
麻生氏の推す県連会長の息子か、それとも鳩山ジュニアか――。 自民党関係者が解説する。
「麻生側の言い分は筋が悪い。蔵内謙はもともと福岡7区の人間だし、わざわざ隣の6区に、しかも鳩山邦夫の弔い合戦に候補者を立てるなんて、後世に禍根を残すことになる」
筋ワルぶりは他にもある。
「そもそも県連会長が自身の息子を公認しようとする時に県連幹部が反対できるわけがないでしょう。入社面接試験で面接官が社長の息子にバツを付けられないのと同じです。麻生の狙いは、6区に謙を出してやり、福岡県知事選に出たがっている父親の勇夫を県知事にしてあげることで県連会長に恩を売ることです」
【「菅vs.麻生」再び、か】
福岡6区の波紋は県をとびこえ安倍官邸にも及んでいる。先の自民党関係者は「実は、安倍晋三首相や菅義偉官房長官も内心では鳩山二郎を推しています」と明かす。
それには、鳩山邦夫氏が11年6月に結成した派閥横断型の政策グループ「きさらぎ会」の影響が大きい。当初5人でスタートした同会は、鳩山氏の豊富な資金力を武器に急速に入会者を増やし、現在では約120人に達する。党内最大派閥の清和政策研究会(細田派、95人)を上回る勢力だ。
邦夫氏は15年8月、きさらぎ会の研修会で「我がきさらぎ会は安倍・菅さんという長期政権を、より長期に、これからも継続してやってもらいたい」と安倍・菅体制をヨイショ。これに菅氏は同年11月の同会パーティで、安倍首相の党総裁再選について「きさらぎ会にいち早く再選支持を打ち出していただいたおかげ」とわざわざ持ち上げて見せた。
さらに邦夫氏死去後の今年7月28日、菅氏は同会の顧問に就任したことを会見で明かした。権力の源泉が公明党・創価学会である菅氏は自民党内の基盤強化が必須だっただけに上手くタイミングをつかんだ恰好だ。
面白くないのは麻生氏だ。消費税増税の再延期や衆参同日選の是非をめぐって菅氏とは激しく衝突してきたが、ここで三度目の一戦を交えることになった。しかも、8月上旬に自民党が実施した世論調査で、蔵内謙氏が鳩山二郎氏にボロ負けするという結果まで出てしまっている。
この世論調査の結果をうけ、自民党の古屋圭司選挙対策委員長は8月23日、蔵内謙氏に公認申請を取り下げるよう求めた。候補者を二郎氏に一本化するための措置だが、県連が決定した候補者を党本部がさしかえようと動くのは異例。麻生氏の苛立ちが日増しに募ってゆく。
(野中大樹・編集部、9月2日号)